「ねえ、美月。ほら……起きなさいよ」
ん?
…………。
目の前に、先生の顔があった。
真純「またずいぶんと長い間寝入ってたわね」
先生が私の頭をぽんぽんと叩きながら飽きれたように言った。
テーブルに突っ伏して、私はずっと熟睡していたらしい。
戸棚の時計を見ると夜10時。工房の湿度が低いせいか、のどがカラカラに乾いている。
また昔の夢を見てしまった。今度はティコとユーイチお兄ちゃんに会った夢。一日に2回も……。一体これってなんなんだろう。
決して答えの出ない疑問が頭から離れない。
私「あの……」
おずおずとテーブルの上に座っている先生の顔を窺う。今までの経験から先生の表情を見れば大体の機嫌とその対策が掴めるのだが……
真純「ん〜?まあ、今日はあんたにしてもらう仕事もそんな無かったし、別にいいわよ。今日はもう帰んなさい」
意外にも先生の機嫌は損ねていないらしい。ただし私の頭においた先生の左手が今度は髪の毛をぐちゃぐちゃにかき回しているが。
私「え?いいんですか?」
真純「そんなに気にするんだったら寝るんじゃないわよ」
先生は笑いながらドアの方を指差した。
真純「ティコ君とロック君もいるわよ」
ティコ「お疲れ様です。姉さん」
ロック「おっす! 美月! お疲れ!」
二人が笑顔でドアの側に立っていた。もちろんいつもの普段着姿で。
真純「いやいや、君たちの方が頑張った!なんてったって美月ちゃんは今までぐ〜すか居眠りしてたんだもんね〜」
私「すみませんでしたぁ。ってだから人の頭いじくんないでください」
ティコ「姉さん、まだだいぶ眠そうですが……大丈夫ですか?」
ティコが私のことを心配そうに見つめている。彼の穏やかな口調は、あのユーイチお兄ちゃんとはやはり似ても似つかない。
私「あ……うん、大丈夫だよ」
でも、姿は全く同じなのだ。ユーイチとティコ。まるで正反対の性格を持つ双子みたい。
ロック「美月、はっやく♪」
私「うん、それじゃあ先生、お疲れ様でした〜」
真純「あ、そうそう。美月、ちゃんと体鍛えないとダメよ」
私「へ?」
ドアを開けてすっかり暗くなった表へ3人で出ようとすると、先生がうしろから声をかけた。
真純「インスピレーションを降ろす時にはね、体力も必要だから」
私「ああ……」
先生の真剣なまなざしが私に向けられている。一応、弟子として見てくれてるってことか。
私「じゃあ私たちはこれで……」
真純「はいは〜い。また明日ね」
逆立った頭を直しながら、ドアを開ける前に私は何か言い忘れてたような感覚の原因を頭から探り出そうとする。
……
思い出した……。
私「先生」
真純「何?」
私「深夜とか携帯に電話かけないで下さいね」
真純「チッ」
私「チッっじゃないでしょ!」