P.E.T.S[AS]

第3話「麗しの巨匠」

労働というものはある意味、心の洗濯とも言えるだろうか。社会に貢献できているという満足感、心地よい疲労、そして人と人とのコミニュケーション。それらによって得られる爽快感や人の温かさは、金銭的な報酬に負けないくらい大きいものだ。

ロック「へいらっしゃい!」
「いらっしゃいませ、でしょう。ちゃんと店長から教わったとおりにやりなさい」
ロック「わーってるよ!」

全く、あいつはいつもいい加減だな。

私たちがアルバイトをしているソバ屋、「よいさ」。
それまで3人の家族と2人のアルバイトで切り盛りしていた小さな店だが、つい最近前任のアルバイト二人が都合で仕事を辞めてしまい、急遽私たちが雇われることになったのだ。フルタイムの仕事が多いが店の主人やおかみさんもとても親切で、私とロックはここにすぐに馴染むことができた。
こんなにも多くの人と接するというのは、動物だった時には全く想像も付かなかったことだ。
今、周りの人たちは私たちを人間として扱ってくれている。

おかみさん「ふう〜、ティコ君にロック君、いつもありがとうねえ」

おかみさんが厨房からやってきて私とロックに声を掛けてきた。

「いえ、仕事ですから。これくらい当たり前ですよ」

いつもにっこり笑って話しかけてくる。きっと誰に対してもそうなのだろう。この人の良さが、この店を小さいながらも繁盛させている要因なのかも知れない。
おかみさん「それでねえ、ちょっと出前に行って来てもらいたいのよ」

「ああ、さっき電話がありましたね」
おかみさん「それでねえ、どっちか行ってきてもらえないかしら?」
ロック「おばさん!それなら俺が行って来る!」

テーブルを拭き終わって手の空いていたロックが威勢良く名乗り出る。

おかみさん「ありがとう。それじゃ頼んだわね。もうすぐ出前のソバができあがるから」
「ああそう、おかみさん、かすみちゃんは今日どうしました?」

かすみちゃんというのは、今年で中学1年生になったこのソバ屋の一人娘である。いつもこの店の看板娘として常連客からも可愛がられているのだが、今日は午前中から全く顔を見せていない。

おかみさん「ああ、かすみはね、今日熱出しちゃったのよ」

おかみさんは相変わらずの屈託のない笑顔でそう言った。その様子から見て、さほどひどい症状ではないのだろう。大抵の事なら、笑ってすませてしまう人なのだ。

おかみさん「でね、お客さんも今は少ないし、ティコ君、ちょっとかすみに声かけてやってくれる?」
「ええ、いいですけど」
おかみさん「あのコ、きっと喜ぶから、ふふ♪」

は、はあ……。


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