きよを妃皇子の家に預け、千田と恵は街に繰り出した。
千田は生まれてはじめてファッションショーなる場所へ行った。
ライトアップされたステージに次々と斬新なデザインの服を着たモデルが登場する。
どの服も色鮮やかで美しく、観客はモデルの登場の度にため息を漏らす。
しかし千田はほとんどショーを見ず、隣に座る恵を見ていた。
恵は終始食い入るようにステージを見、時折手帳に何かメモしている。
それはいつもの隣に住んでいる恵とはまったく違い、
一人のデザイナー志望の若者の姿だった。
千田は妙に新鮮な気持ちになった。
ショーは好評のうちに幕を閉じ、千田と恵は会場を出て喫茶店でお茶を飲むことにした。
恵はまだ興奮しているのか、目を輝かせながら感想を述べている。
恵「中盤に出てきたあの服、
あのスカートのラインが彼の持ち味なのよね。
絶対これからブレイクするわよ。それとほら・・・・」
そんな恵の姿を千田はコーヒーを飲みながら見つめていた。
あの事件以来、こんなに和やかな気分になれたのは初めてだった。
恵「それにさぁ・・・あ、千田君、もしかしてつまらなかった?」
千田「いや、そんなことないよ。初めての体験でとても楽しかった。」
千田は心からの笑みを恵に見せた。
恵「そう・・よかった、千田君が元気になって・・」
千田「え?」
恵「知ってたんだ、あたし。千田君があの時以来ずっと悩んでること。」
恵はティースプーンをカップの中で回しながら言った。
恵「あたし言ったよね、『千田君は悪くない』って。
でも千田君はまだ迷ってる、本当にあれでよかったのか。
そんな迷ってる千田君の姿、あたし耐えられなくて・・
だから今日、駄目もとで誘ってみたの。
ちょっとの間でも、昔の・・いつもの千田君にも戻って欲しくて・・・」
千田「恵ちゃん・・・・ありがと、今日は本当に楽しかったよ。」
その言葉に、恵は照れながら笑顔を見せた。
その後千田と恵はとりとめのない話で盛り上がった。
故郷のこと、学生時代のこと、夢のこと・・・・
二人とも心からの微笑を浮かべつつ話している。
まわりから見れば、明らかに仲の良いカップルに見えるだろう。
喫茶店を出てきよを迎えに行くとちゅう、先を歩く恵が口を開いた。
恵「・・・・なんだか羨ましいな・・・」
千田「え?」
恵「ほら、中学校のころ、千田君が好きだった女の子。
千田君が体を張って守ろうとした女の子。羨ましいなぁって・・」
千田「恵ちゃん・・・」
恵「あたし・・そこまでされたことないし・・これからも・・・
だから、なんだか妬いちゃうなぁって・・アハ、何言ってんだろ・・」
千田「・・・・・・」
千田の足が止まる。気付かず恵は話しつづける。
恵「きっとその子、容姿端麗で頭も良くってみんなの人気者で・・・
あたしなんか比べものに・・・」
千田「そんなこと!!・・そんなこと・・ないよ・・」
恵「え?」