建物の中は西洋アンティークがたくさんあり、あたかも中世ヨーロッパのお城のような感じだった。
弥生の案内で奥に進み、大きなホールのような部屋に入る3人。
そこでは数人のおそろいのウインドブレーカーを着た人たちが
机を運んだり、花の位置をいろいろ変えてみたり、照明テストをしたりしていた。
舞台上ではさっきまで3人と一緒にいた葉月がスーツをびしっと着こなしたキャリアウーマン風の女性と話し込んでいる。
弥生「有本、準備はどう?」
葉月「はい、あらかた終わりました。今反町さんと最終ミーティングをしていたところです。」
「反町」と呼ばれた女性がこっちを向く。
文「弥生、ここで使うドライアイスなんだけど、3キロで十分かしら? それとももっと多いほうがいいかしら?」
弥生「文に任せるわ。いつもみたいにいいショーにしてね。
紹介するわね。彼女は反町文(そりまちふみ)。私のファッションショーの一切を取り仕切ってるの。
文、この子は私達の後輩で今回お祝いに来てくれた伊手元恵さん。
それとそのボーイフレンドの千田さんと妹のきよちゃん。」
文「反町といいます。どうぞよろしくね。弥生はあんなこと言ってるけど、私は花を飾ったり照明配置を考えたり
ちょっとお手伝いしているだけ。ショーに出てくる作品が散々だとどんなショーだって失敗するわ。
その点、弥生の作品だとこっちものびのび仕事ができるわ。」
弥生「あらあら、お褒めに預かり光栄ですこと。ウフフフ・・・」
楽しそうに会話をする弥生と文。
文「それじゃ、私は有本さんとここでもう少し話をしてるわね。」
弥生「それじゃあとであったかいレモンティでも持ってくるわ。有本も、よろしくね。」
葉月「は、はいっ!」
弥生とともにホールを後にする3人。
と、そこに待ち構えていたかのようにフラッシュが!!
パシャ!!!
千田「うわぁっ!!」
突然のことでびっくりしてこける千田。
恵「せ、千田君!!」
きよ「お兄ちゃん、大丈夫?」
@@@「やりぃ!とうとう特ダネゲット!! 『新進気鋭デザイナー布川弥生に男の影!!!』」
階段の影から大きなカメラとカバンを持ったポニーテールの女性が姿をあらわした。
弥生「またあなたね。残念だけどそれはお門違いよ。
彼はこの伊手元恵さんのボーイフレンドで私とは今日会ったばかりよ。」
@@@「そんなこと、写真はしゃべりませんよ。
他人が見たら、多分布川先生と関係のある男性だって思っちゃいますって。」
困り果てた顔をする弥生。
弥生「仕方ないわね。じゃ、取引しましょ。
その写真を写真誌に売らないって約束しなさい。もし約束できないというのなら
『フカワ』専属カメラマンの話はなかったことに・・・」
@@@「ストーップ!!!わかったわよ。絶対写真誌には売りません。
ったく、危なくなるとすぐそのこと言うんだから・・・・」
頭を書きながらいたづらっこのような笑いを浮かべ、千田のほうを向く。
@@@「青年、ケガはないかな?」
千田「は・・・はぁ・・・」
@@@「まぁ悪く思うな。あたしも仕事でやってるんだからさ。あ、申し送れましたがあたしはこういうものです。」
女性は千田に名刺を渡した。
千田「『フリーカメラマン 入来睦美(いりきむつみ)』カメラマンさんですか・・・」
睦美「ま、今はフリーだけどね。もうすぐ『フカワ』専属カメラマンになって
この布川先生とともに世界にデビューしていくってわけよ。何ならサインあげようか?」
千田「あ・・・え・・・いや・・・・いいです。」
睦美「何だ、遠慮深いねぇ、青年。」
弥生「入来さん、あんまり他人に迷惑をかけちゃダメよ。
今夜のパーティーまでまだ時間もあるんだし、たまには風景写真でも撮りに行ってみたらどう?」
睦美「ま、それもいいかもね。それじゃ今夜、またきまぁ〜す。」
カメラを振り回しながらその場を去る睦美。
千田「あんなふうにカメラ振り回しちゃって・・・・」
恵「ホントに・・・雇うんですか?あのカメラマン・・・・」
弱り顔の弥生。
弥生「腕はいいですからね。それに・・・・」
きよ「それに?」
弥生「うちで雇わないと、あの子どこで何をするやら・・・・」
そういって弥生は歩き出した。後を追う3人。
弥生「皆さんのお部屋は2回の奥です。かぎは開いてますから荷物を置いてきたらいかがかしら?」