夢を見ていた。
私たちにとって、とっても重要な、あの日の約束の夢を。
あの日、私たちはいつものように、寄り添うように眠っていた。
布団は2組あるからそんなことをしなくてもいいんだけど、ラナが一緒に寝たいという理由から、ずっと同じ布団で寝ていた。
「えへへ、ご主人様~」
甘えん坊モード全開になっているラナの頭を、優しく撫でていた。
ラナが初めて我が家(といっても、1人暮らしのアパートだけど)に来てから、ちょうど3ヶ月が過ぎようとしていた。
「気持ちいい?」
「はい。気持ちいいです~」
「ラナは白鳥の頃から、これが好きだったよね」
雪の降る河川敷の下で、まだ白鳥だったラナを、オリジナルの子と一緒に撫でていた。
寒かったけど、ラナを撫でていると、不思議と暖かい気持ちになった。
それは、モモちゃんを失ってから久しぶりに感じた、動物の暖かさだった。
「あのときの感触、今でも覚えているよ」
「ご主人様…。嬉しいです~!」
ラナは私の胸に顔をうずめて、顔を擦り付けた。
「きゃははは。く、くすぐったいってば。や、やめなさいよ、ラナ」
「いやですぅ~」
「も、もう。いい加減にしないと、殴るわよ」
ごつ。
軽く、ラナの頭をゲンコツで殴った。
「うう、もう殴っていますよ~」
「ラナがやめないのがいけないの」
「だって、ご主人様のお胸、気持ちよかったんですもん」
「…そんなによかったの?」
「はい!」
満面の笑みで答えるラナに、私はもう何もいえなくなって、無言で自分の胸へラナの顔を誘う。
「窒息しないようにしなさいよ」
「はい。ご主人様…」
それからしばらく、部屋に心地よい雰囲気が流れた。
お互いに何も言わなかったけど、心が繋がっているから、別に気にはしなかった。
「…ねえ、ラナ」
そろそろ日付が変わろうとした頃、私は小さな声で話し掛けた。
「なんですか?」
「…ラナは、守護天使として、今、ここにいるんだよね?」
「…はい。白鳥のころのご恩をお返しするために、この身に変えてお守りするために、私はここにいます」
ラナはこのとき、守護天使の立場で答えた。
「それ、なしにしないかな」
「えっ?」
「私、まだまだ守護天使のことはわからないし、めいどの世界っていうのもよく理解できないけど、でもね、私にとってのラナは、大切な家族なんだよ。うぬぼれかも知れないけどさ、私のためにラナが傷つくのは、やっぱり、嫌なもんなんだよ」
「ご主人様…」
このときはまだ、大してそういう危険な目に遭ってはいなかったけど、これから先、そういうことがあってラナが傷ついたら、絶対に悲しいから。
ラナのご主人様、いや、家族として、それだけは見たくなかった。
「ここにいる以上、ラナは1人の女の子だよ。そして、私はあなたをあらゆるものから守る保護者兼お姉さんだからね。わかった?」
「でも…」
「私ね、ラナには自分の人生を歩んでほしいのよ。守護天使として、私なんかにその人生を消費させなくてもいいの」
ラナが私のところに来てから、ずっとそのことを思っていた。
守護天使として、必死に約立つために努力している姿を見ているから、余計にそう思う。
かつて、私はラナの命が消え行く瞬間を見た。
そのことが脳裏から今でも離れないから、今度はのびのびと生きてほしいと願う。
「たくさん友達を作って、恋をして、立派な女性になってよ。そのときは、私も祝福するよ。ラナのご主人様兼お姉さんとして」
「ご主人様…。う、うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
ラナは私の胸に顔を押し付けて、小さな声で泣いた。
嬉しい気持ちが流れ込んできた。
あんなに優しい気持ちになれたの、しばらくなかった。
「…約束、してくれるかな?」
ラナの頭を撫でてながら、私は右手の小指を近づける。
「ぐすん。指きり、ですか?」
「そう。何よりも硬くて、何よりも綺麗な約束をするには、これが一番なの」
「…はい。しましょう」
ラナはそっと、私の小指に自分の小指を重ねる。
「「ゆ~びき~りげんま~ん。う~そついたら~針千本の~ます。ゆ~びきった!!」」
「…あははは」
「…うふふふ」
お互いの小指を離してから、なんだかすごく恥ずかしくなって笑った。
私の人生においてもっとも重要で、絶対に守らなければならない、約束だった。