「大切な約束、だったんだね」
「だ、誰?」
私の夢の中に、誰かが入り込んできた。
あたりを見回してみると、そこは夏なのにダッフルコートに身を包み、おまけに羽を生えた女の子がいた。
「初めまして、かな」
「……暑そうだね」
天使もどきの格好をした女の子に発した最初の言葉がこれだった。
「まさか、そこには隠し武器を持っていて、私を暗殺しようとしたんじゃないでしょうね」
「えぐぅ。そんなことしないよ~」
「冗談よ。ところで、私の夢の中へと勝手に入ってくるあなたは、どこから派遣された天使さんなのかな?」
「ボク、天使じゃないよ。きみと同じだよ」
一瞬、女の子が何を言っているのかわからなかったけど、今の私はそんなのを気にする余裕はなかった。
「…名前は?」
「なゆだよ。きみは?」
「平野桃華。一応、大学生をしているの。にしても、ずいぶんと丁寧に喋るよね、小学生の割には」
「えぐぅ。ボク、高校生」
「……ま、まあ、世の中には大人なのに小学生に間違える人がいるからね」
実際に、私の友達にそういう人がいる。
また子供料金で入れちゃったって嘆いていたっけ。
「ところで、あんた…なゆちゃんだっけ? 私の夢、見たの?」
「うん。だって、ここは夢の世界だから。ここにいる人の頭の中に、夢が流れ込んでくるんだよ」
「…はた迷惑な世界だね」
「そうかもしれないね」
なんだか和やかなムードが流れる。
とそれも、すぐに終わりを告げる。
「…ねえ、私、ここから戻れるの?」
私はいつまでも夢の世界にいるつもりはない。
早くこの世界から抜け出して、ラナたちのいる現実に戻らなきゃいけないから。
「戻れるよ。だって、桃華さんは一度目を覚ましたから。いつでも、ここから出ることは出来るよ」
「よかった…」
「でもね、すぐに戻ってくるよ。この世界に」
「…あまり戻ってきたくはないな」
現実に戻ったって、今の私じゃ何も出来ない。
でも、ラナをこれ以上悲しませることはしたくない。
「大丈夫だよ。きっと」
「…とりあえず、私は現実の世界に戻るわ」
「うん。いってらっしゃい」
とここで、重大な問題に気づく。
「…どうやって戻ればいいんだろう?」
「祈ればいいんだよ。心のそこから祈れば、きっと帰れるよ」
「了解」
私はラナのいる世界に戻れるように、その場で祈った。
すると、私の体は金色の光に包まれた。
「いってきます」
なゆちゃんにそういって、一旦夢の世界から離れた。