2人のモモ

第8話「夢の跡」

 全てがどうでも良くなっていた。
 大切な子たちの死は、私の人生を大きく変えた。
 助けてあげれなかった。
 モモちゃんも、ラナも。
 動物のためにどうしてそんな心を痛めるんだって、親から言われたとき、私はこう言った。

「…あんたたちよりも、ずっと、家族だって思えたからよ」

 初めて、親に表立って反抗した瞬間。
 お兄ちゃんを憎み、親を憎み、関係ない人たちを、人間を憎んだ。
 幼い心を守るためには、そうするしかないから。
 誰かを中傷して、悲しみに満ちた心を保護するしかなかった。
 傷つくことは、もうなかった。
 逆に、私が傷つけていった。
 親に手はあげたことが一度もなかったけど、他人や、犬や猫には凶器を向けた事がある。
 喪失感を、他人にも味あわせたかった。
 そんなことを続けていた高校2年生のある日、私はペットショップで楽しそうに動物を見ている女の子がいた。
 それが、守護天使になる前のラナだった。

「…何しているの?」

 無感情で、私は話しかけた。

「動物を、見ているんですよ」
「…そんなの、わかっているわよ」

 少し苛立つ私をよそに、ラナは私を振りかえることなく話し続ける。

「ここにいる動物さんたちは、みんな、優しいご主人様のところに行くんですよね」

 やけに大人びた子供だと思った。
 見た目は小学1年生なのに、中身は私よりも大人が入っているのかと錯覚させられるぐらい。

「優しくなんか、ないと思うよ」

 いつもならシカトしていたけど、女の子が発していた雰囲気がどこか懐かしいものだったから、真剣に答えた。

「動物は、人間とって奴隷でしかないから。自分たちの道楽のために飼って、いらなくなったら捨てる、そんなご時世だから」
「…私は、難しい事は、よくわかりません」
「だろうね」
「でも、私はとっても大切にされたことがありますよ」

 一瞬、この子が言っている事がわからなかった。

「9年前、白鳥だったときに、大切にされたことがあります」
「はあ? あんた、人間でしょ?」

 それが普通の人間の反応だと思う
 この世の中には、守護天使の概念はまだまだ存在しない。
 だから、そういうことを言うと、馬鹿にされるか、もしくは、混乱させる。
 私も、最初はそうだった。

「…ご主人様は私に、あんたは私が守ってあげる。もう、絶対にモモちゃんのときみたいなことは、させないからって言ってくれました」
「それって…」

 ラナが白鳥だったときに、確かに私はそう言ったことを思い出した。
 どうして、まだ子供のあなたがって思ったとき、頭の中に、あのときのことが流れこんできた。
 そして、この子があのときの白鳥のラナだということを悟った。


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