「はい」
「ありがとうです」
近くの公園に移動した私たちは、側にあった自販機で買ったジュースをラナに渡す。
でも、プルタブの開け方を知らなかったから、仕方なく開けてやった。
「…どうして、私のところに来たの?」
半分ぐらいジュースを飲んだところで、私はラナに聞いた。
少なくとも、私は優しいご主人様のままではなかった。
自分に絶望して、人生を棒に仕掛けた女だから。
「いえ。まだ見習いの身なので、今日はこれからご主人様のところに来ますよという、挨拶をしに来ました」
「じゃあ、質問を変えるね。どうして、私のところに来るの?」
「私たち守護天使は、ご主人様のお守りするのが役目ですから」
「守る?」
「はい。めいどの世界で習いました。この身に変えても、ご主人様のあらゆるモノからお守りするのが、守護天使の役目だって」
「…そんな資格、私にはないよ」
普通の人ならともかく、自分をダメにしていた私には、守護天使を持つ資格なんかないと思った。
けど、そんな私だからラナが来たんだって、今なら思う。
「私はラナのときのような、動物を思う気持ち、人間を思う気持ちを捨てたから。だから、今の私には守護天使を持つ資格なんて、ない」
「…捨ててはいませんよ」
ラナは私の顔を真剣に見つめて、そう言った。
「だって、捨てていれば、私なんか無視していたはずですよね?」
「……」
「捨てていれば、私はこの現世に来ることが出来ませんでした。私の思い出が残っているから、私はここにこれたんですよ」
「ラナ…」
「…どうして、捨てなかったんですか?」
今度は逆に、ラナが私に聞いてきた。
偽りの答えは認めない。
そんな空気が、私の周りに流れていた。
「…捨てられるわけ、ないじゃない」
全てがどうでもよくなっても、モモちゃんとの思い出、そして、ラナとの思い出だけは捨てたくなかった。
捨てたら、今の私を保つものが何もなくなるから。
悲しいけど、思い出だから。
思い出を美化することなく、うそ偽りのない記憶を保つことが、あの子たちへのせめてもの償いになるから。
「私も、ずっとご主人様のことを思っていました。だから、きびしい修行にも耐えることが出来たんですよ」
「でも、見習いなんでしょう?」
「あは、あははは。で、でも、絶対に、今度は正式な守護天使として帰ってきますから、そのときは、置いてくれますか?」
「…そうね。まさか野宿をさせるわけにはいかないからね」
「じゃ、じゃあ…」
「一緒に暮らしましょう。そのときまで私、あのころの私に戻っているから」
「は、はい!」
嬉しそうにラナが返事をしたときに、突然ラナの体が金色の光に包まれた。
「もう、帰らないと」
「そう…」
「ご主人様。いえ、平野桃華さん」
「えっ?」
目の前で、ラナの姿が変わった。
長い杖を持った、すごくえらそうな人に。
「白鳥のラナのこと、よろしくお願いしますね」
「ちょ、ちょっと、あなたは…」
そういいかけたとき、女の人は黄色い光と共に消えていった。
何がなんだかわからなかったけど、とりあえず、白鳥のラナが守護天使というのに転生して、私のところに来るということはわかった。
その日に向けて、私は変わることを決意した。
そして、2年後。
私は、あの日の女の子の姿をした白鳥のラナと再会した。