ゆさゆさ。
「う、う〜ん」
誰かに体を揺すられて、私は目を覚ました。
そこには、私服姿のお兄ちゃんとラナが立っていた。
「あっ、やっと起きた、ご主人…じゃなくて、桃華お姉ちゃん」
「…ああ、うん。ちょっと、眠っていなくてさ」
一瞬戸惑ったけど、他の人が側にいるときは、私のことをお姉ちゃんと呼ぶように言ったことを思い出した。
「そういえば、あの子犬は?」
「大丈夫。きみのおかげで、なんとか一命を救うことが出来たよ」
あのころと変わらない笑顔で、お兄ちゃんは言う。
気づいては、いないか。
まあ、そうだよね。
あれから10年は経っているから、変わらなくてもしょうがないか。
でも、見た目はモモちゃんと一緒なんだから、わかってもいいんだけどな。
『ねえ、ご主人様』」
頭の中に、ラナの声が響く。
ラナの特殊能力の1つ、テレパシーだ。
『もしかして、この人がご主人様の探していた…』
『うん。お兄ちゃんだよ。もっとも、あっちは気づいていないだろうけどね』
『言わないんですか?』
『確実に信じてもらうのが手元にないから、どうしようもないよ』
写真でもあればいいんだけど、荷物はホテルの方に置いているから、証明のしようがない。
それに、私の名前を覚えていなきゃ意味がないから。
『…私を経由して、ご主人様の思いを伝えればいいですよ』
『そんなこと、できるの?』
『はい。ただ、そんなに長い時間はできませんけど…』
『それで充分だよ』
今ここで伝えなきゃ、もうチャンスはないと思うから。
私はもう、自分できっかけを無くす事はしたくない。
『じゃあ、私の手にご主人様の手を置いてください。そうしたら、私がこの人に毒…じゃなくて、テレパシーを飛ばしますから』
『うん。お願いね』
なんか言いなおしたのが気になったけど、ラナのことだから特に心配はしない。
それよりも、集中しなきゃ。
私は自分の手をラナの手に乗せた。
『昔のことを、思い出してくださいね」
『うん。いつでもいいよ』
『では、行きます!』
ラナが目を閉じたのを合図に、私は昔のことを思い出す。