「きゃは。しっぽが動いたよ。かわいーなー、このおサルさん!」
幼い日。
私は、ペットショップで1匹のおサルに出会った。
普段勉強に追われていた私にとって、おサルさんは心を癒してくれる存在だった。
出会って以来、私はずっとおサルさんの前でくぎ付けになって、『モモ』という名前をつけて、ずっとため息をついていた。
飼ってあげたいけど、家では勉強に集中できないのは全て禁止されているのと、40万という膨大な金額がそれを邪魔していた。
そんなとき、
「いらっしゃいませ」
高校生風の若い男の人が私に話しかけてきた。
それが、お兄ちゃんとの出会い。
そのときの会話は、今でも覚えている。
「わ、私、お客さんじゃない!」
「別にかまわないよ。それよりも、ずっとここでリスザルを見ていたようだけど、好きなの?」
一瞬、こんな私のことを見てくれていた人がいるんだなって思った。
まあ、気づかないほうが変だと思うけど、モモちゃんに気をとられたからそんなことはどうでもよかった。
「うん。だって、このおサルさん、とっても可愛いの! このくりくりとした目も、長いしっぽもかわいいし」
「うんうん」
「それに、あっ、今見た? かくって首をかしげる仕草。いや~、ベリーキュート!!」
「べ、ベリー…?」
「とっても可愛いって意味。今時そんなことぐらい知らなくちゃダメよ、店員さん」
我ながらなんてませているんだと思う。
年上の人にこんな失礼なことを言うんだから、本当に怖いもの知らずの若者だったんだろうな。
でも、小学生でも知っているようなことを年上の人が知らないと、人間はとっさに上に立とうとしているんですよね。
夢の中で、ごめんなさい。お兄ちゃん。
「そんな可愛いと思っているなら、飼ってあげればいいのに」
お兄ちゃんの言葉に、私の気持ちはさらに沈んだ。
「…できないの」
「どうして?」
「これこれ」
値段を指差すと、お兄ちゃんはすごくびっくりした。
ペットショップで働いているのに、ペットの値段を知らないお兄ちゃんに、私は警戒心丸出しだった。
でも、それはすぐに解く事になる。
「僕、ペットの値段に興味無いんだ。ただ、側にいられればいいだけで」
私もモモちゃんの側にいられればそれでよかった。
檻越しでも、感じられればよかった。
ラナのときも、ただ世話が出来ればよかった。
例え、親に逆らう事になろうとも関係無かった。
話しは戻るけど、私はとにかくモモちゃんと一緒にいたいと伝えた。
そしたらお兄ちゃんは、店長さんに頼んで、妹として私をモモちゃんの世話を出来るようにしてくれた。
「じゃあ、記念に写真をとろうか」
店長さんの計らいで、私とお兄ちゃんはモモちゃんの檻の前に立って、記念写真をとった。
のちに、私の幼い日の記憶媒体として、唯一残るものとなった。
それから数日。
私は学校帰りに毎日寄って、モモちゃんの世話をしていた。
でも同時に、親にばれないようにといつも生活をも送っていた。
まだ幼い私の体は、1日で回復できる容量を大きく越えて、肉体的に限界に来ていた。
実際、本当にしんどかった。
だけど、お兄ちゃんと一緒にモモちゃんのお世話をしたかったから、無理にしても倒れるわけにはいかなかった。
しかし、限界を超えた体は悲鳴をあげて、私の意思とは関係なく休みを要求していた。
そして、倒れた。
次に目を開けたとき、私は、親にただ一言、
「もう、ペットショップには行っちゃいけませんよ」
一方的に言われた。
もっとも、そんなことを守ろうとなんて思ってはいなかった。
病気が治ったら、またペットショップに行こう。
またお兄ちゃんと一緒にモモちゃんのお世話をしよう。
そう思っていた。
けど、その運命は非情だった。
私が寝こんでいる間に、モモちゃんは死んだ。
さよならも、ありがとうも言えぬまま。