「い、今のは…」
テレパシーを受け取ったお兄ちゃんから出た言葉がこれだった。
な、なんか疲れた…。
『ど、どうでしたか? ご主人様』
ラナの顔を見ると、なんだか青ざめていた。
もしかして、ラナの限界を越える範囲まで使わせてしまったのかな?
『だ、大丈夫です』
『ラナの大丈夫は、当てにならないの! もう…』
混乱しているお兄ちゃんのよそに、私はラナを抱き寄せて休ませる。
この子はいつも無理するから、こっちが気づいてあげないとどうしようもないほどになっちゃう。
それは、白鳥のころも同じ。
早く元気な姿を見せたいから、気づいている羽を広げて飛ぼうとしていた。
私たちが止めるまで、元気な姿を保とうとしていた。
少しでも心配させたくないからってラナが言っていたけど、そんなことされたら、かえって心配する。
保護者兼ご主人様として、こういうのは早期に止めてあげないと、また辛い別れを繰り返す事になるから。
「なんか、誰かの記憶が僕の中に入ってきたような…」
「…私の記憶だよ。昔、あなたと過ごした、記憶」
ラナを通して見せた私の記憶を、お兄ちゃんに説明する。
思い出してほしい、あの日ことを。
私が良い意味で変わるきっかけになった、あの会話を。
「じゃあ、君は本当に、平野桃華ちゃんなの?」
「うん。モモちゃんのオリジナルであり、かつてお兄ちゃんと一緒にモモちゃんの世話をした、かつて、小学3年生だった、平野桃華だよ」
やっと思い出してくれたお兄ちゃんに、ため息と安堵が漏れる。
当時からかなり鈍感だったけど、それは今もかわっていないみたい。
「桃華ちゃんは、モモのことを知っているのかい?」
「うん。昨日会ったから。それに、私のところにもいるからね、守護天使が」
力を使い果たして眠っているラナの頬に、人差し指でぐりぐりする。
「ラナって言ってね、モモちゃんと同期の守護天使なの」
「モモと一緒か。なんか、繋がっている感じだよね」
「私もそう思ったよ」
私とモモちゃん、そしてお兄ちゃんを繋げてくれたラナ。
偶然かも知れないけど、これって、なんか必然なような気がする。
「この子は、さしずめ私たちの縁結びの役割をしていたんだね」
改めて、私はラナの頭を撫でる。
「ありがとうね。ラナ…」
「むにゃむにゃ…。ご主人さまぁ〜」
なんかの夢を見ているラナが、寝ぼけて私の胸へと顔を埋める。
あはは、なんかお母さんになった気分。
でも、しばらく動けないかも。
「お兄ちゃんは、これからどうするの?」
とりあえず、お兄ちゃんのこれからの予定を聞く。
せっかくここまで来たんだから、捕まえておかないと。
「僕はもう少ししてから、みんなの待っている家に帰るつもりだけど」
「だったら、私も一緒に行っていい?」
「うん。ぜひ来てよ。子犬を見つけてくれたお礼もしたいから」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「じゃあ」
ラナの頭を軽く撫でてから、お兄ちゃんは奥へと消えて行った。