2人のモモ

第3話「もう1人のモモの手がかり」

「こんにちは」

 私は、ラナが守護天使だという女の子たちに挨拶をした。
 案の定、誰この人? っていう空気が流れる。

「こんにちは。いい日和ですわね」
「ええ、本当に」

 高校生と思われる女の子が、私の会話に合わせてくれる。
 なんかこう、のんびりとした雰囲気で、そのくせ壊れるとひどいぞこいつ、みたいな感じを出していた。

「ところで、何かご用ですか?」
「ええ。この子が、みんなと遊びたいって言うんですよ。ほらラナ、挨拶」
「こんにちは。あの、目がしょしょぼして、井戸水で顔を洗って、ドラム缶風呂に入りたくないですか?」
「はあ?」

 い、いきなり何を言うの、この子は。
 私、何か悪いものでも食べさせたかしら?

「そうですわね。入りたいですわね」」

 女の子がそう言うと、ラナ、他の女の子たちの雰囲気が和らいだ。
 今のは、なんらかの暗号だったんだのかな?

「私、白鳥のラナっていいます。初めまして」
「まあ、ご丁寧に。私、カメのアユミといいます。こちらが…」
「キツネのアカネだよ。ところで、そっちの人は、あなたの…」
「はい。ご主人様です」
「初めまして。平野桃華っていいます」

 普段、あまり人に溶け込めない私だけど、このときはなんか自然に打ち解けた。
 それにしても、やっぱり私だけじゃないんだな、守護天使がいる人って。
 アユミと名乗った守護天使は、少し離れていたところで遊んでいた小学生ぐらいの守護天使たちを呼んで挨拶をさせた。
 その子たちは、ルルちゃんとナナちゃんと言った。
 にしても、やっぱり守護天使は他にもいるんだな。
 ラナからは『星の数ほど守護天使の数はいるんですよ、ぽりぽり』って聞かされていたけど、どうやら本当みたい。
 ちなみに『ぽりぽり』は、ラナが好きなお菓子であり、私の御袋の味であり、、パンの耳揚げ・ピーナッツパター塗りを食べているときの音。

「平野さんは、この辺の人ではないですよね?」
「うん。まあ、ちょっとした人探しも兼ねた旅行かな」
「まあ、いいですわね」

 アユミちゃんはペレ-帽を少し傾けて頷く。
 なんというか、物腰が上品な子かも。

「くんくん」
「?」

 アユミちゃんに気をとられていると、いきなりナナちゃんが私の匂いを嗅いでいた。
 おかしいな、私、匂いがつくもの食べていないんだけどな。

「ナナちゃん。ご主人様の匂いを嗅いで何しているの?」
「くんくん。あやや? なんか、モモと同じ匂いがするよ」
「本当? ナナ」
「ナナは良い子のわんこだから、嘘なんかつかないよ」
「…そういえば、モモに似ているな」

 なんか、あっちの事情で事が進んで行っている。
 それにモモって、私とほとんど同じ名前だし、死んだサルのモモちゃんとも同じ。
 同じ名前の守護天使が、あっちにもいるのかな?

「ねえねえ、何を話しているの?」
「いえ、家のモモちゃんっていう守護天使とあなたの顔がそっくりなものですから。そういえば、人探しと言われていましたが、どの方を探していらっしゃるのですか?」
「えっと、この人なんだけどね」

 私は財布に入れていた写真を出して、アユミちゃんに手渡す。
 ペットショップでモモちゃんの世話をする事になったときに店の前で撮った、お兄ちゃんとの最初で最後の写真。

「やっぱり…」
「みたいだね」
「何が?」
「…桃華さん。私たちには必ずオリジナルが存在するのは、ご存知ですよね?」
「まあ、少しはね」

 ラナが私のところにきてしばらくしてから聞いた。
 守護天使が再び転生するには、ご主人様に恩返しがしたい動物の魂と、その拠り所になる器が必要だと。
 条件としては、転生する魂の前世の姿に1番影響を与えた人物が選ばれるそうだ。
 私の場合、ラナを世話したときは仲良しの友達一緒だったから、転生するさいに、この子の若き日の姿とほぼ同じ容姿になったらしい。
 だから、モモちゃんが守護天使として転生したときは、私がオリジナルになる可能性が高いらしい。

「私たちのところに、写真のころのあなたと同じ容姿をした守護天使がいるのですわ」
「うわ、すごいじゃないですか、ご主人様!」
「…モモちゃんが、いるんだ」

 ラナは驚いたけど、私はそれと反対の感情を抱いた。
 正直、あの頃の自分は好きじゃない。
 何もわからない、ただ自分の感情のままに過ごしてきた日々。
 小学生だったからしょうがないと言った人がいるけど、そのせいで命が1つ失った。
 それは紛れもない事実で、私を今でも苦しめることになっている。
 だから、あの頃とほとんど同じ姿をしたモモちゃんがいるということは、あのときの私との対峙となる。
 不安がよぎる。
 性格は彼女のものだけど、容姿は私と同じ。
 どこまで自分が保てるかがわからない。
 ぎゅ。

「ラナ?」

 いきなりラナが私の袖を引っ張ってきた。
 すごく、心配そうな顔をして。

「何か、私の心を感じた?」
「うん。ご主人様の不安な気持ちが流れこんできたの。それで、私も不安になっちゃって」
「…ごめんね」

 私はラナの髪をそっとなでる。
 だめだな、私。
 感受性の強いラナの前で、もう弱気になるのはやめようと思ったのにな。
 おし、気合だー!!。

「ご主人様、キャラが違うよ」
「あぅ」

 ここまで感じ取らなくてもいいのに。
 ラナ、今日からあんたを正式にNTとして認めるわ。

「それで、どうするの?」
「…会いたいんだけど。その、モモちゃんって子に」

 私は会いたい旨をアユミちゃんたちに伝えると、すぐに了解してくれた。
 とにかく、1度会ってみたい。
 会って、言いたい。

「おかえりなさい」と「久しぶり」って。

 そして、「ごめんなさい」を。
 私たちは、アユミちゃんの後をついて行く。
 過去の私に会うために。
 

<続く>


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