未だ見ぬ此方の物語

「うーん、これはちょっと重傷ね。あなた、名前は?」
「リ、リリュー。ペルシャネコのリリュー…」
 
メガミ様が怪我をした少女を検診している。
 
「そ、そんな事よりも、早く向こうを…」
「大丈夫よ。サッちゃんは何でも斬れる、ほら…ちょっと『マッド』な天使だから」
「ま、まっど…?」
「それよりせかいもこっちに並んで、ほらほら」
「は、はい…」
 
せかいはリリューの横に並んだ
メガミ様は錫丈で何か文字を書くような仕草をすると
 
「……治癒の符! 《蛍光》《窓雪》」
 
メガミ様が呪文の言語を紡ぐと、せかいとリリューの周りを静かな光が覆う。
 
「さて、これで少しずつ回復していくわ」
「むにちゃん、これはー?」
 
てゅきが無邪気な声で聞いてくる。
 
「ああ、これ? これは符術。とある人を真似てコピって使ってるの」
「おまじない?」
「うーん、ちょっと違うカナ?」
「あったかーい」
 
てゅきも混ざって光りを浴びている。
 
「それじゃ、サッちゃんが片付けるのを見守ると致しますか」
 
飽くまで呑気なメガミ様。見れば状況は互角といったところか。
 
「だ、駄目なんだ…あのままじゃ…」
 
急にリリューが喋りだした。
 
「だめ? どういう事よ?」
「あの…『白骨魔神戦騎』は、どんなに攻撃をしても全く効いていないんだ」

カキィン!

丁度「白骨魔神戦騎」の攻撃でサキが吹き飛ばされ、4人がいる場所に戻って来た。
 
「っく!」
「あら、珍しいわね。そんなに強いの? あの妖怪」
 
サキは息を荒立てて
「………およそ魔神レベル3と言った所かしら…? しかも物理によるダメージが全くないわ」
「ふーん…」
 
メガミ様の反応は至って薄い。
 
「…って、え!? 魔神レベル3!? ちょっと、せかい! よく生きていたわね…。普通なら一撃でコロリよ!?」
「え、そ、そうなんですか…?」
 
そう、実際にはこの場にいるだけで押し潰されそうな予感さえ漂う…。その中にいながら、せかいは耐えていたのだ。余程の精神の持ち主であろう。
 
「……なら…」
 
サキは封冠を外そうとする…

 
「ちょっと待った!」
 
急にメガミ様が制止をかける
 
「…どうしたの?」
「あたし☆が相手になるわ」
 
あっけらかんとした様子で前に出る
 
「なっ!? 無茶よ! あれには物理的な攻撃は一切利かないのよ?」
「なら効くようにすればいいじゃないの」
「えっ!?」
「ま、見てなさい」
 
そう言うなりメガミ様は翼を現し、ひょいと少し離れていった…
 
「…………………」
 
皆はその「翼」に見とれて…いや、驚いていた。
メガミ様のはためく翼は、普通の守護天使や大天使のものとも違う…
蒼白く、「羽」と呼べる物がない。代わりに氷柱(つらら)が隆起したような翼を持ち、先端は水飛沫(みずしぶき)の噴き出しているかのようにキラキラと輝いている…
  
皆は「感動」よりも「驚愕」に陥った。
メガミ様はそんな事も気に止めず、巻き添えにならない場所まで行くと、札を一枚取り出し、呪文を唱え始めた。
「白骨魔神戦騎」はその間にも攻撃を仕掛けてくる!
  
「あれでは…!」
  
サキが駆けつけようとしたが「白骨魔神戦騎」が既に攻撃に移る

「……………攻の符! 《鎧壊》」
 
メガミ様は札と錫丈を交え、振りかざした!
刹那、「白骨魔神戦騎」の白い鎧のような物とロザリオが瞬時に光の粒となって、
一気に消え去った…。

後に残る物は、黒く細長い岩の塊の集まりだけだった…
白骨魔神戦騎はただ空中を漂っているだけである…
 
「これで倒せるわよ、サッちゃん」
「…………」
 
サキは呆気に取られていた…
 
「ほらほら、ここからはあなたの番よ? とっとと切り刻んじゃって!」
「え…あ……分かったわ…」
 
サキはすぐに冷静になり、黒い塊の集まりと化した白骨魔神戦騎に斬りかかる。
 
「……迷える魂に救いあらん事を……」
 
その台詞と同時に、白骨魔神戦騎はバラバラに砕かれ…光の粒となって消えた…


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