「こんなこともあってそんなこともあって。それにこんなことも……」
きらきらと輝く瞳やどこか遠い目をしながらご主人さまとのことを話し続けていたみさきの口がようやく止まり、先の憂いが表情に戻ってきた。
「……そして他に、なにかあったのだな」
しばらくしてから、ゴウが尋ね、しかしみさきは弱く首を横に振る。
「……なにかあったかというと、なにもありません。すくなくともなにか特別なことはありません。でも……どこかおかしいんです、ご主人さま」
「どこかというと、具体的にはどうおかしいんだ」
そのゴウの言葉にみさきは困惑をそのまま声に乗せた。
「その……はっきりなにがおかしいとは言えないんですけど……どこかわたしによそよそしくなったような……いえ、気のせいって言えば気のせいと言えなくもないくらい小さな変化なんですけど、でも……」
「そうか……」
みさき自身もそう言うが、それが気のせいではないであろうということをゴウも疑ってはいなかった。
主人のすべてを微細漏らさず毎日感じ取っている守護天使は、あるいは主人本人より主人のことを理解しているとも言える。
その守護天使がそう考えるのであれば、みさきの主人の変化はたしかなことなのだろう。
「その変化……変化そのものがよくわからないほどのものとなれば、理由もわからぬのであろうな」
「はい……」
そう答えながら、膝に置いた両手を握りしめ、みさきはうつむく。
「だから……毎日いろいろご主人さまのおっしゃることや、表情や、いろんなことからそれがなんなのか知ろうと思ってがんばったんですけど……その……」
みさきは「それでもわからなかった」というように言葉を切ったが、
ゴウは彼女のかすかな声音のゆらぎから、そうは取らなかった。
「……心当たりがあるのだな。できれば考えたくないような……」
わずかにためらったが、問題を曖昧(あいまい)にしたままでは先には進めない。
そう考え、ゴウはたしかめるように尋ね、みさきは悲しげに笑ってうなずいた。
「ゴウさまには、なにも隠せないんですね……」
「………すまんな…」
「いえ、いいんです、最初から全部話すつもりだったのに隠そうとしたわたしが悪いんですから」
笑顔から悲しみをわずかに取り除いて、しかし完全には消えないまま、みさきは心当たりを話した。
「……その……ご主人さま……好きな女の人が…………できたのかもしれないって……」
話した途端、先ほど以上の悲しみが、みさきの面を染めた。