夢追い虫カルテットシリーズ

VOL.39「マジックボイス」

ある日、カルテットの4人が家で過ごしていると、不意にチャイムが鳴った。

ひとみ「はーい。」

ひとみが出ると、そこには意外な人物がいた。

ひとみ「あ、あの、ゆうきさん?」

何と、そこにいたのは顔を赤らめながら無言でうつむいて立つ「ドクガのゆうき」だったのである。

ひとみ「どうしたんですか?何でここにいるのですか?…というよりそもそも何かゆうきさんらしくないですよ、今。」

ひとみは何やら様子がおかしいゆうきに対して質問をぶつけた。しかし、ゆうきはお構い無しで家へと上がっていった。
ゆうきが家へと上がると、そこにいたカルテットの4人にも質問をぶつけられた。

みゆう「ゆうきちゃん、何でここに来たの?」
あすか「顔…赤いですよ…。」
まゆり「病気…ですか…?」

とここで、ゆうきはようやく重い口を開いた。ゆうきがしゃべると同時に、その場は驚きに包まれた。

みゆう「ゆうきちゃん?」
ひとみ「何ですか?その声は?」

ゆうきのしゃべった内容がおかしかったのではない。ゆうきの声がいつものようなやる気のなさそうな低い声ではなく、高くて軽くてかわいらしいいわゆる「アニメ声」だったのである。

ゆうき「声が…おかしくなってしまったのだ…。」
あすか「本当…ですね…。」
まゆり「何故そのような声に?」

その質問には、ゆうきは顔を真っ赤にしながらも答えた。

ゆうき「実はな…。」

(これよりゆうきの回想)

(電車で移動中のゆうき。)

ゆうき「…?」

(何やら怪しい手によってゆうき(とりあえず見た目は美少女)のお尻が撫でられる。)

ゆうき「(痴漢か…。チッ…。)おい…やめろ…。」

(ゆうきは注意を促したが、それでも痴漢はやめようとしない。)

ゆうき「そんなことをして恥ずかしくないのか…?まあやめるがよい…。」

(ゆうきはつとめて冷静を装っているが、内心は不安が増幅されている。そうこうしているうちに痴漢はますます調子に乗っていく。)

ゆうき「やめろ…。おい…やめろったら…。」

(痴漢の手がゆうきの大事なところをいやらしい手つきで弄る。ゆうきは恥ずかしい気持ちと変な気持ちが混ざったようになる。)

ゆうき「あっ…。」

(ゆうきはついかわいらしい声でそうつぶやいてしまう。その時に発した声質が今も続いてしまっている。ちなみに、その痴漢は駅から降りて逃げていってしまった。)

ゆうき「…という訳なのだ…。」

ゆうきの話に、4人はかわいそうな気持ちになった。

ひとみ「それは大変でしたね…。」
あすか「痴漢は…許せない…です…。」
ゆうき「そうだな。で、この声がどうしてももとの高さに戻らないのだ。どうしたものだろうか?」

ゆうきは心底困った様子であった。

ゆうき「この声では普段のように行動できないのだ。『めいどの世界』に戻る期限は明日なのだが、それまでに声を元に戻さないと…。特に普段よくツッコんできたつぐみやはやかにここぞとばかりにバカにされてしまう…。」
みゆう「ゆうきちゃんって、けっこう気にしいなんだね。」
ゆうき「うるさい。」
みゆう「その声で言っても迫力ないよ。キャハハハ。」
ゆうき「バカにするな。」
ひとみ「まあまあ、2人ともその辺にしてください。それよりも、ゆうきさんの声を戻す方法を考えたほうがいいですよ。」

ひとみが仲裁に入り、それをきっかけとしてゆうきとカルテット、合わせて5人による話し合いが始まった。
しかし、なかなかいいアイディアが出ない。しばらくの間、室内に流れるのは「うーん…。」といううなり声だけであった。しかし…

みゆう「あっ!」

みゆうが晴れ晴れとした表情で叫んだ。どうやらいいアイディアが出たらしい。

ゆうき「何だ?」
みゆう「ゆうきちゃんにはナイショ。ちょっとみんな集まって。」

みゆうはカルテットの残り3人を集め、ひそひそ話で自らのアイディアを伝えた。

みゆう「…と言うわけ。」
ひとみ「え、でもそれは…。」
あすか「まずいの…では…?」
みゆう「うーん、同じような目に遭えば治るんじゃないかと思ったんだけど…。」
まゆり「もう少しショックの少ない方法がいいのではないでしょうか。」
みゆう「そうかあ…。」

ちなみにみゆうの案は「光彦にゆうきのお尻を触らせる」というものであったが、さすがにそれはボツとなったのであった。
やがて、光彦が帰ってきた。

光彦「ただいま…ってこの子誰だっけ?」
ひとみ「ほら、この前来たじゃないですか。あたしたちの修業時代の友人のゆうきさんです。」
光彦「ああ思い出した。で、何でそのゆうきちゃんがここにいるわけ?」
みゆう「ゆうきちゃんね、声が高くなって戻らなくなっちゃったらしいの。」
まゆり「お願いですご主人様。ゆうきを今日一晩泊めてあげて下さい。」
あすか「状況が…あまりにも…気の毒…なのです…。」
光彦「分かった。ゆうきちゃん、今日は泊まっていきなさい。」
ゆうき「かたじけない…。」
光彦(うわ…本当に声変わってるよ…。て言うかむしろこの方が顔に合ってるな…。)

かくして、ゆうきは日高家に泊まることとなった。
そして、6人で夕ご飯を食べた後、風呂が沸いた。

みゆう「ねえゆうきちゃん、ゆうきちゃんはお客さんだから、先にお風呂に入ってよ。」
ゆうき「しかし…。」
みゆう「いいでしょ、ご主人様。」
光彦「ああ。先に入りなさい。」
ゆうき「そうか…。じゃあ、お言葉に甘えることとしよう。」

こうして、ゆうきは風呂へと向かった。
それからしばらくして…

光彦「あ、メガネ洗ってこないと…。」

帰ってきてから視界がおかしかったのが気になっていたので、光彦はメガネを洗いに脱衣所にある洗面所へと向かった。そして、そこで予想だにしなかった悲劇が訪れた。
ゆうきが日高家の風呂場を使い慣れていなかったせいか、ゆうきの服はちょうど光彦の通り道をふさぐ形で置かれていた。そのようなことなど予想できていなかった光彦は、ゆうきの服を踏んでしまった。
光彦にとって運が悪かったのは、その日、脱衣所がカルテットによってしっかりと掃除されており、床が滑りやすくなっていることであった。そのせいで、ゆうきの服が脱衣所の床に滑ってしまい、光彦は服を踏んだ際に滑ってバランスを崩してしまった。
滑った光彦は、思わず支えを求めて風呂場のドアに手を伸ばした。そして、その時に風呂場のドアを押してしまったのだ!風呂場のドアは完全に開いてしまった。

光彦「あいてて…ってしまった!」
ゆうき「!?」

ゆうきは体についた泡をシャワーで流している最中であった。その裸体は、普段の毒舌ぶりが信じられないほど清らかで美しいものであった。
光彦はゆうきの身体の美しさについ見惚れてしまった。しかし、光彦はすぐに現実に戻されてしまった。

ゆうき「この…変態が…!」

バシャッ!
ゆうきが光彦に向かってお湯をぶちまけたのである。まあ考えてみれば当然のことであろう。

光彦「いやこれは…その…。」
ゆうき「そういうことをするとは…主人失格だぞ…。」

光彦はゆうきの怒りの一言を浴びた。ついでに言うと、偶然とはいえ(みゆうが狙ったような)エッチなショックがゆうきに与えられたにもかかわらず、その声は未だに「アニメ声」のままであった。
やがて、ゆうきは風呂から上がった。そして、珍しく感情的にまくし立てるのであった。

ゆうき「こんなセクハラ主人じゃ、先が思いやられるぞ。」
みゆう「ご主人様はいい人だよ!このアニメ声!」
ゆうき「言ったな!このバカ!」
みゆう「バカぁ?」
光彦「まあまあ、今回の一件は僕が悪かったんだから…。」

光彦がゆうきに詫びを入れ、何とかその場は納まったのであった。
そして、今度は光彦が風呂に入るのであった。
光彦が風呂に入っても、裸を見られたことに対するゆうきの怒りは納まらなかった。ゆうきは光彦に毒を吐きたかった。しかし、本来の光彦は非常にいい人であり、ゆうきをもってしてもツッコむのは難しかった。

(まだイライラする…そうだ!)

ゆうきは何かを思いついたようであった。そして、邪悪な微笑を浮かべながら脱衣所へと入った。
脱衣所へ入ると、そこでは光彦が裸で体を拭いていた。
ゆうきはここぞとばかりに光彦の股間に顔を向けた。そして、渾身の気合(?)で次の行動に移った。

ゆうき「…へっ。」

作戦の通り、ゆうきは鼻で笑ったのであった。とここで、ゆうきは自分の体の変化に気づいた。

ゆうき「声が…戻ってる…!」

そう、先ほどの「鼻で笑う」行動が功を奏し、ゆうきの声が元に戻ったのである!

ゆうき「みんな…声が戻ったぞ…。」

ゆうきの声が戻ったことに、カルテットの4人は喜んだ。

ひとみ「あ、よかったですね。」
あすか「おめでとう…ございます…。」
みゆう「やっぱゆうきちゃんはこうでなくっちゃ!」
まゆり「そうですわね。」
ゆうき「みんな…。まあ心配かけたな。」

一方光彦は、そんな喜びから取り残され、一人落ち込んでいた。

(十代のかわいい女の子が…僕の股間見て「へっ。」だってさ…「へっ。」…。くそ…。)

やはりゆうきのトレードマークは「毒」なのであった。

おわり


ゆうきの想定CVである渡辺菜生子さんは、かわいい声を出すこともできる人です。そういうことから想像したのが今回です。
ちなみに、下品な話ですが、光彦の男性自身は世間並み位にはあります。だから光彦は安心するように(笑)。そしてゆうきを襲った痴漢は饗介ではないです。


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