夢追い虫カルテットシリーズ

VOL.31「怒りの横審」

現在、D.F.からの逃亡生活を送っている饗介であったが、その彼も心のオアシスを求めたいことはある。
というわけで、饗介は、古本屋で漫画を読んでいた。

饗介「お、これはすごいや。」

その漫画は、江戸時代をモチーフとしたシリアスなものであったが、その中で、悪代官に帯同していた悪の剣豪が女性の着物を後ろから真っ二つにしてお尻を丸見えにさせるシーンがあった。

(なるほどね…こんな技があるのか。)

そのシーンを見た饗介の脳の中に、着物をバラバラにされるまゆりの妄想が浮かんだ。

(これより饗介の妄想)

まゆり「い…いや…。」
饗介「いくぜっ!うらああっ!」(刀をまゆりに振り下ろす)
まゆり「あ…ああーーっ!」(着物がバラバラになってしまう)
饗介「へっへっへ…。いい眺めだねえ、まゆりちゃん。」

饗介「…これはすげーぜ!よーし、俺もこの技を覚えよう!」

興奮した饗介は、すぐさま古本屋を飛び出し、「めいどの世界」へと向かった。
何故めいどの世界かというと、そこに刀を持っている人間、つまりかつみがいることを知っているからであった。饗介は刀をかつみから奪おうとしているわけである。

(かつみちゃん…かつみちゃん…。)

探し回る饗介であったが、チャンスは意外と早く訪れた。
何と、無防備なことに、かつみが刀を外した状態で弁当を黙々と食べていたのだ。

(よし、今だ!)

饗介はあっという間にかつみの刀を念力で奪い、逃走した。
かつみが気がついたときには、すでに刀と饗介は消えた後であった。

かつみ「あ、あれ?刀は?」
饗介「ふっ、これでいい。」(もっと遠くにいます)

刀を奪った饗介は、次に現実世界の洋品店から練習用に大量の服とマネキンを超能力を駆使して盗み出した。

(これで道具はそろった。)

かくして、饗介の剣術修業は始まった。
はじめのうちはやはり下手くそもいいところであった。何せ、刀の重さのせいで上手く振り回すことさえできないのである。
やっとのことでそれなりに刀を振り回せるようになっても問題は残った。やはり素人の悲しさか、加減がなかなかきかず、そのせいで服だけではなくマネキンまで斬ってしまうのである。饗介は人を殺傷するようなことはしない主義であった。ゆえにそれはどうしても越えなくてはならない壁であった。
しかし、血のにじむような修練の末、とうとう間違いなく服だけを斬れるようになった。それも、上着だけ斬るとか下着まで斬って全裸にするとかの加減も可能な領域の腕前を身につけてのものである。

饗介「ついにやった!オレ流ストリップ剣の完成だ!」

ストリップ剣の完成…剣道の達人が聞いたら卒倒しそうな話ではある。しかし、饗介にとっては、何もかもがエロの対象なのであった。

(じゃあ早速実験だ!)

かくして饗介は、実験のためにいそいそと美少女の宝庫たる「めいどの世界」へと向かうのであった。

(誰にしようかな…。)

きょろきょろと見回す饗介の目に飛び込んできたのはかつみの姿であった。

(あ、かつみちゃん。よーし、あの気の強そうな女の子を裸にひん剥いてやるか!)

そう思った饗介は、かつみに突撃を仕掛けた。

饗介「おりゃああ!」

とその時、

かつみ「ふんっ!」

かつみが目にも留まらぬ早技で懐から短刀を出し、饗介の一太刀を受け止めたのである!

饗介「な、何?」
かつみ「あ、あたしの刀!ふーん…やっぱりあんただったんだ…。」

かつみはけっこう余裕の表情で饗介を見据えた。

饗介「く、くそっ!お前なんかこれで裸にしてやる!」

余裕の表情に腹を立てた饗介が再びかつみに対して斬りかかる!しかし…

かつみ「甘いわ!」

かつみが短刀を饗介の周りで素早く振り回した。すると、饗介のほうがパンツ一丁になってしまったのであった。

饗介「な…な…?」
かつみ「剣術に関してはあたしのほうが本家よ。残念だったわね。」

もはや形勢は完全にかつみ有利であった。

饗介「く、くそっ…。覚えていやがれ!」

饗介は刀を捨てて逃げ去ったのであった。

かつみ「あ、待ちなさい!」

かつみが慌てて追いかける。しかし、やはり逃げ足という意味では饗介のほうが上であり、かつみが饗介を捕らえることは残念ながらできなかった。

かつみ「ま、また逃がしちゃった…。刀は取り戻せたんだけどね…。あーあ…。」

実に残念そうな様子のかつみであった。
一方、パンツ一丁にされながらもどうにか逃げおおせた饗介はと言うと…

(おのれ…。まあ今回は失敗だったが…次はまゆりちゃんで成功させてやるぜ!て言うかそのほうが楽だな。待ってろよ。必ず裸を世間にさらしてやるぜ!)

全然懲りていないのであった。
さあどうなる!危うし、夢追い虫カルテット!

まゆり「ふ、不吉な悪寒がしますわ…。」

おわり

何やら初めて「引き」を作ったオチになりましたね。次回、饗介の夢かなう?
ちなみに、冒頭の漫画の元ネタは「カムイ伝」(白土三平著)です。これ本当はすごくシリアスで難解な漫画なのですがね。


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