ある日、日高家に電話がかかってきた。
光彦「よし、僕が出よう。はい、日高です……………。」
しばらくして、話が終わった。
ひとみ「誰からですか?」
光彦「ああ、母さんからだった。」
みゆう「お母さん?」
まゆり「で、どのような内容だったのですか?」
光彦「うん、それが『たまには里帰りしなさい』て言ってきたんだよ。」
カルテットは、「里帰り」という言葉に意外と敏感に反応した。
まゆり「ご主人様の故郷ですか?ぜひとも行きたいですわ。」
みゆう「あ、あたしも行きたいです。」
ひとみ「あたしもです。」
あすか「わたしも…。」
光彦「うん、僕も行きたいんだけどね。でも君たち残していくのは心残りだし、かと言って5人分の旅費は出せないし…。」
このように光彦が迷っていると、カルテットは笑顔でそれを打ち消した。
まゆり「大丈夫ですわ。わたくしたちは実はぬいぐるみに変身できるのです。」
光彦「ぬいぐるみに?」
あすか「はい…。実は…守護天使は…全員…そう…なれます…。」
光彦「おお、それなら大丈夫だね。じゃあ今度の休みにみんなで行こう。」
かくして、5人は一路光彦の故郷である浜松へと向かうこととなった。
浜松駅に到着した光彦は、駅のトイレの個室でカルテットを通常形態に戻させた。
みゆう「狭いよー!」
ひとみ「しっ!外に聞こえます!」
まゆり「とにかく早く外へ出ましょう。」
あすか「そう…ですね…。」
というわけで5人は外へ出た。幸い、誰にも見つからず、怪しまれることは避けられた。
駅を出た5人は、駅の北口の前に立った。
ひとみ「これがご主人様の生まれ育った街ですか…。」
みゆう「けっこう大きいね。」
4人は感心しながら街を見回していた。その中で、光彦が何かを思い出したように大きな建物を指さした。
光彦「あのデパートでやっていた昆虫展で、僕はまゆりと出会ったんだ。」
ひとみ「本当ですか?」
まゆり「あ、そのことはかすかに覚えていますわ。そうですか…あそこでしたか…。」
まゆりは懐かしそうな表情を浮かべた。そしてしばらく場は緩やかな沈黙に包まれた。
それを破ったのは光彦であった。
光彦「まあひたりたい気持ちも分かるけど…そろそろ行こうか。」
まゆり「あ、はい。」
光彦「あの駅から出ている電車に乗るんだ。」
5人は遠州鉄道の新浜松駅から電車に乗り、そして光彦の実家の最寄り駅である遠州上島駅へと移動した。
光彦「あ、駅から家までは少し歩くよ。」
5人は光彦の実家に向かって歩き出した。
駅から少し行くと、公園があった。
ひとみ「あっ!」
不意に、ひとみが公園の中へと駆けて行った。残された4人が慌ててそれを追う。
まゆり「どうしたのですか?」
ひとみ「ここであたしはご主人様にアメをもらったんです。」
みゆう「へえ、そうなんだ。どうなの、ご主人様。」
光彦「あ、確かにそうだったと思うよ。」
光彦もそのことを思い出したようであった。ひとみは思い出話を続けた。
ひとみ「今は巣は全滅させられてしまいましたが…。」
ひとみの口調がしんみりしたものとなり、それとともに残りの4人の中に一抹の不安にも似た気持ちが去来した。
ひとみ「…でも、まだこの公園にあたしが暮らしていたころの面影が残っていてよかったです。」
ひとみに明るさが戻った。
ひとみが普段の状態に戻ったことにより、一行は安心して先へと進んだ。
そして、光彦の家に近づいていくと、ドブがそこにあった。
みゆう「あ、このドブであたしは育ったの。」
あすか「そう…なんですか…。」
みゆうはドブを覗き込んだ。
みゆう「まだ育っている感じがするなあ。いいなあ…あたしも子供を増やしたいなあ…。」
みゆうはとろけたような表情で光彦を見つめた。
光彦「え、あの、みゆう?」
光彦は戸惑った。そして、その一連の様子はカルテットの残りの3人にちょっとした嫉妬心を芽生えさせた。
ひとみ「みゆちゃん!」
みゆう「今はそういうことをする時ではないでしょう。」
あすか「そう…です…。」
みゆう「えー…。」
ちょっとピリピリした空気に包まれる4人。慌てて光彦がそれに割って入った。
光彦「まあまあ。ほら、もう僕の家も近いし、やめようよ、ね。」
光彦のおかげでケンカは避けられた。
そして、光彦の家が見える位置まで5人は近づいた。
とここで、光彦がカルテットに依頼を入れた。
光彦「これから僕の家に行くけど、母さんが怪しむとまずいから、みんなぬいぐるみになってよ。僕の部屋で戻ってもらうことになるわけだけど、ね、頼むよ。」
というわけで、カルテットはぬいぐるみになった。そして、その上で光彦は家の敷地へと入るのであった。