夢追い虫カルテットシリーズ

VOL.16「天使のスプリングピクニック」

ひとみ「ご主人様、この人達はいったい何をしているんですか?」

ある夜、ひとみがニュース番組を見ながら光彦に質問してきた。
そこに映っていたのは、花見客で賑わう公園の様子であった。

光彦「ああ、これはお花見だよ。」
みゆう「お花見、って?」
光彦「まあ一種のピクニックだね。桜の花を見ながら食べたり飲んだりおしゃべりしたりするんだ。」
まゆり「おもしろそうですわね。」
光彦「そうだ、今度の日曜日みんなで花見に行こうか。」
ひとみ「いいですね。」
みゆう「賛成!」
あすか「面白…そうです…。」
まゆり「ではきまりですわね。」

 

 

そして日曜日。

ひとみ「ご主人様、起きて下さい。」
光彦「ん、んああ?」

光彦が起き出してみると、カルテットは全員エプロンか割烹着を着ており、室内はいい匂いで満ちていた。

光彦「こ…これは…?」
みゆう「ピクニックだからお弁当を作ってたの。」
まゆり「ご主人様が『早く行かないといい場所が取れない』と言ってましたから…。」
あすか「早起き…しました…。」
ひとみ「あたし達はもう準備万端です。」
光彦「…さすが。」

光彦は感心した。
というわけで、カルテットの機転により、予想外に早く出発する事ができた。
公園に到着した時、まだ人はまばらであった。

ひとみ「すいててよかったですね。」
光彦「じゃあマット敷こうか。」

五人はマットを敷き、そこに座った。

光彦「どうだい、きれいだろう。」
ひとみ「本当ですね。」
みゆう「一面ピンク色でとっても素敵です。」
あすか「風が…気持ちいいです…。」
まゆり「来てよかったですわ。」

全員でほのぼのとした気分にひたったのであった。
考えてみれば、ただ桜を見るだけなのだからかなり退屈なはずである。しかし、そばには大好きな仲間がいる。時間はたちまち過ぎた。
そして、あっという間に昼になってしまった。

みゆう「ねえ、おなかすいたー。」
光彦「確かにそうだね。」
まゆり「ではお昼にしましょうか。」

というわけで、五人での食事が始まった。

光彦&まゆり&あすか&みゆう&ひとみ「いただきまーす!」

今日の弁当は、さすがにカルテットが早起きして作ったという力作なだけあって、おにぎりからおかずからデザートまで本当においしそうであった。
しかも、食べても本当においしかった。何というか、心のこもった温かい味がするのである。

光彦「お、おいしいよぉ。」
ひとみ「なぜ泣いているのですか?」
光彦「みんな、こんなおいしいお弁当を食べさせてくれてありがとう。」
まゆり「そんな…。」

こうして、手作り弁当の力で五人は幸せな気分にひたる事ができたのであった。

お昼の後、五人は散歩に出る事にした。
途中、光彦は面白いものを見つけた。

光彦「お、この池にはボートがあるのか。」

この公園には池があり、池ではボートが優雅に往復していた。

ひとみ「ボート?」
光彦「漕げそうかい?」
みゆう「あ、大丈夫。」
ひとみ「あたしも大丈夫だと思います。」
光彦「じゃあ行ってみよう。」

五人はボートを借りることにした。
ところが、乗る段になってちょっとしたもめごとが起こった。
カルテットの四人全員が光彦と一緒に乗りたがったのである。

みゆう「あたし、ご主人様と一緒に乗りたい!」
ひとみ「ちょっと、一人だけずるいですよ!」
まゆり「わたくしもご主人様と一緒がいいですわ。」
あすか「…わたしも…。」
みゆう「何よ!」
ひとみ「何ですか!」

四人の間に険悪な雰囲気が流れた。

光彦「あーもう!じゃあこうしよう。」

場を収めるために光彦が提案したのは、光彦は一人でボートに乗り、四人はそれぞれ二人ずつになる方法だった。

光彦「これならケンカする余地はあるまい。」
まゆり&あすか&みゆう&ひとみ「…はーい。」

四人は残念そうではあったが、他ならぬ光彦の言う事なので、納得した。
かくして、光彦、ひとみとまゆり(漕ぎ手はひとみ)、みゆうとあすか(漕ぎ手はみゆう)、というグループ分けにして、三台の手漕ぎボートで池に繰り出すのであった。
初めのうちは、三台は固まって航行していた。

光彦「池の上の感想はどうだい?」
ひとみ「面白いけど…疲れますね。」
みゆう「少し経ったら、漕ぐの交代した方がいいよ。」

だが、慣れてくるうちに、三台はそれぞれ思い思いのコースをとるようになっていった。
そんな折、二人の少年が力任せに漕ぐ一台の暴走ボートが池に出現した。

光彦「何だ、危ないな。」

暴走ボートの狼藉はとどまるところを知らなかった。そして、とうとう光彦やカルテットにとって最悪の事態が起こってしまったのである。


Otogi Story Index - シリーズ小説 - 夢追い虫カルテットシリーズ