天使とのゆびきり

第10話「青き絆。サキミとの誓い 後編」

 そこは一面の白で覆われていた。
 誰の足跡もなく、ただひっそりと、もう誰も使っていない神社が佇んでいた。

「おっかしいな。サキミなら、ここにいると思ったけど」
「いや、正解だよ」
「……いきなり現れて、俺の肩に乗るんじゃねえよ」

 カラス形態のそらが、何事もなかったように、俺の肩に降りてきた。
 一瞬、びびってしまった。

「それより、サキミは神社の賽銭箱のところにいるよ」
「そっか……」
「説得、頼むね。もうおいらじゃ、耳を傾けてくれそうにないから」
「全力は尽くすから、そらはどこかで見ててくれ」
「はいよ」

 今一度、そらが飛びだったのを確認してから、俺はサキミがいるという賽銭箱の裏側へと向かう。
 どうして裏側かといえば、ちょっとした悪戯をしようと思ったから。
 一応、心配をかけたんだから、そのぐらいの茶目っ気はなんてことない。
 ただ、老朽化がかなり進んでいるようで、なんとか気配を悟られないように、慎重に表側へと進んでいく。

「ご主人様…」

 もう少しで接触できると思ったときに、ふいにサキミが俺を呼んだ。
 バレたと思い、慌てて角に隠れてが、様子的に気づいていないようだった。
 改めて、俺は最大限に気配を消しつつ、サキミへと近づいていく。
 そして、

「うりゃ!」
「えぅ!」

 後ろから羽交い絞め風に抱き付いたら、予想通り、大声で驚いてくれた。
 ふふふ。作戦は成功だ。

「ご、ご主人様……」
「心配したぞ、このバカえぅ天使」
「えぅ〜。バカえぅ天使じゃないですぅ〜」
「口答えするとは、いい根性だな。おしおきだ」
「えぅ〜!」

 前にかけた腕をそのままサキミの首へと持っていって、軽く締める。
 もちろん、サキミはじたばかするが、こいつごときの力で弾かれるほど弱くはかけていない。

「ぎ、ぎぎ、ギブ、ですぅ〜」
「うむ。なら解いてやろう」

 首に持っていった腕を、今度はサキミの腹のところでクロスさせて、持ち上げて、座っていた俺の膝の上へと置く。
 ふわっと、心地の良い匂いが俺の鼻をつく。

「ったく、心配かけるなよな」
「ご主人様……」
「こんなに冷たくなって…。ごめんな」

 サキミの頬に俺の頬を合わせて、ぎゅっと引き寄せる。
 はたから見れば、相当恥ずかしい光景だな。

「俺だって、お前がどんな思いをして俺のところに来たのか、わからないわけじゃないんだ。必死のサキミの姿を見れば、全部わかるから」

 たった数日だったけど、サキミの精一杯の行動は、今までどれだけ苦労して手に入れた幸せなのかを知るには、十分すぎるほどだった。
 そんな風にされれば、嫌でも感じずにはいられなかった。

「私はもう、離れたくないんですぅ。すごいいじわるだけど、でも、とても優しいご主人様のそばにずっと居たいんですぅ」
「……俺は、お前を縛り付ける杭にはなりたくない」

 個人に囚われてしまうことは、自分を見失うことになる。
 今のサキミは、まさにその状態だった。
 そらが言うことに耳を傾けないで、ただひたすら、俺のそばにいることを願う。
 悪くはないのだが、その先のことを見ないのは、サキミにとってそれは悪影響にしかならない。
 せっかくの機会を逃すばかりか、築き上げたものまで失うことにもなりうるのだ。
 だから、俺は心を鬼にする。
 サキミのために、かつて那美さんに抱いていた気持ちを忘れるために。

「お前はハトだったときのように、自由に羽ばたいてほしい。だから、サキミは一旦めいどの世界とやらに戻れ」
「……どうしても、ですか?」
「ああ。でも、ただで行け、なんて言わない。だから、これをやる」

 俺はポケットから、青いリボンを取り出して、サキミにつけてやった。
 首の前で蝶々結びをして、ほどよく締める。

「これは……」
「俺たちの絆の証だ。昔のみたいに」
「覚えてて、くれたんですか?」
「まあな」

 青く純粋な絆のために。
 それが、このリボンにかけた願いと想いだった。
 身体は離れていても心は繋がっていますように。
 どんなに辛く悲しいことがあっても、笑っていられますように。
 大層なご都合主義な考えだったかもしれないけど、それが3人を結びつけると信じていたから。

「身体は離れていても心は繋がる。だから、これをしている限り、サキミはいつだって、俺のところに帰ってきてもいいんだよ」
「でも……」
「だったら、ゆびきりもしようぜ。それだったら、より確実だろう?」
「……はいですぅ」

 サキミを隣に座らせたら、先に小指を出すように指示した。
 そしたら俺は、ゴン!って音がするほど頭突きをした。

「えぅ〜。痛いですぅ〜」
「我慢しろ。俺だって痛いんだよ」
「えぅ〜」
「じゃあ、やるぞ」
「は、はいですぅ」
「俺は、サキミがいつでも帰ってきても、おかえりって迎えることを誓います。ゆ〜びき〜りげんまん。う〜っそついたら、はりせんぼぉ〜ん、のぉ〜ます。ゆ〜びきった!」

 と、小指を離そうとしたけど、サキミが離さなかった。

「こら。ゆびきりしなかったら、約束できないだろうが」
「だってぇ〜」
「だったら……」
「んん! ん、んん…」

 ふいをついて、俺はサキミにキスをした。
 実に数年ぶりのキスは、なんというか、サキミのいい匂いがした。
 んで、サキミの力が抜けたところで、小指と唇を離した。

「ご、ご主人様…」
「これで、約束したぞ。サービスもつけたから、絶対の約束、だぞ」
「……えぅ〜♪」
「もういいかな」

 タイミングを計ったかのように、人型のそらが現れた。

「そらちゃん……。うん。私、行くよ」
「そっか。じゃあ、めいど服になって」
「うん」

 サキミが境内に降りると、身体が光りだした。
 そして次の瞬間には、青色で、背中に大きな羽と黄色の輪をしたサキミが現れた。

「えへへ。どうですか?」
「なんというか……。似合わないな」
「えぅ〜」
「……帰ってきたら、ゆっくり見ないとな」
「は、はいですぅ。そのときには、鑑賞会、しましょう」
「ああ」
「では、ご主人様…。行って来ます」
「行って来い」

 とびっきりの笑顔を残して、サキミとそらは、再び光に包まれて、今度はそのままいなくなった。
 その場所には、サキミのだと思われる羽が降り注ぎ、その場の雪と同化するように消えていった。

「……さて、どうやって帰ろうかな」

 真っ白に覆われた世界で、俺はほどほど困りながらも、帰路へとついた。

<サキミ編 終>

 

 

あとがき♪

K'SARS「ようやくだよ。ようやく終わったぜよ」
サキミ「えぅ〜。終わってしまいましたぁ〜」
K'SARS「おっ、一応サキミ編のヒロイン&元祖あとがきメンバーのサキミちん、戻ってきたか」
ミナト「お疲れ様でした」
カナト「お疲れ様」
サキミ「あ、ありがとうですぅ」
K'SARS「さて、さっさと次の章にとりかからないと」
サキミ「えぅ〜」
ミナト「あっさりしてますね」
K'SARS「あのね、まだあと4人もいるんだから、早くしないと終わらないんだよ」
カナト「でもさ、一応さ、ここにヒロインがいるんだから、何か感想を言わないと」
サキミ「そうですよぉ〜」
K'SARS「お前に今更言う必要はないだろう」
サキミ「えぅ〜」
ミナト「冷たさの中に暖かい心、ですね」
カナト「見え見え、だね」
K'SARS「ええい、うるさいな。さっさと次に行く。サキミは当分、出番なし」
サキミ「えぅ〜」
???「ようやく私たちの出番ですね」
???「うん」
K'SARS「名前は、次で出すからな」
???「期待しているね」
???「でははん!」


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