「…さみーよ」
寒空の下。
俺は、サンタクロースの格好をして、せっせとアルバイトに励んでいた。
仕事がないこのご時世。
とにかく、正月をウッハウッハ…な気分には程遠いが、少しでも世間の正月に近づけるように、体に鞭を打って働くのだ。
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませ〜」
凍りつくような空気の中を、もう1人のアルバイトの子と一緒に声を出して、客寄せをする。
高校生ぐらいの女の子。
なんでもどうしてもお金がいる事情があるから、ここの店長に頼み込んで、こうして同じ格好をして働いている。
今時、勤労少女というのが存在しているのかと驚いたが、他人のプライベートに口を挟むほど、俺は人間を好きじゃない。
「来ませんね」
「まあ、現実はこんなものだろう」
世はクリスマス。
ここで歩いている連中は、後に暖かい人の温もりがある奴ら。
俺らみたいに、悲しく働いている者には目をくれないのだ。
わかっていたこととは言え、なんかムカついてきた。
「…休憩にするか」
「えっ? で、でも…」
「別にここを離れるわけじゃないよ。ただ、体に暖かいものを入れないと、こっちが参ってしまうだろう?」
実際に、俺の体が段々と凍り付いているのがわかる。
早く暖かいものを飲まないと、こっちが倒れてしまうかもしれない。
「まあ、そうですけど…」
「じゃあ、ここを頼むな。俺は飲み物を買ってくるから。何がいい?」
「えっと、じゃあ、ミルクティーで」
「はいよ」
俺は少女にその場を任せて、近くの自販機に飲み物を買いに行った。
「…こんなこともあったな」
がこん。
少女の分のジュースを買ったとたんに、ふと昔のことを思い出した。
今日みたいな寒い日に、女の子の為に飲み物を買いに行ったことがある。
そのときは、俺の方が年下だったのだが。
そういえばあいつ、あのときのあの人に似ていたな。
「…早く戻ろう」
随分と昔に忘れた感情を振り払うように、俺は2つ分のジュースを持って、少女の所に戻った。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
要望通りのミルクティーを投げてよこして、すぐに俺も自分の分のコーヒーを飲む。
「はあ〜。温まります」
「……お前、どうしてこんなに日にバイトなんてしているんだ?」
自然と口から出た言葉。
それは、発した俺自身が一番驚いている。
どうして、こんなことを聞いたのだろうか、と。
「…プレゼントをしたい人が、いるんです」
少女は俺を見て、そう言った。
「その人には、たくさんご迷惑をかけてしまったので、それで、今日お会いするときに、少しでもお詫びの気持ちを込めて、プレゼントを買いたくて、アルバイトしているんです」
「律儀なんだな」
「でも、その人が、何がほしいのか、わからないんですよ」
「聞かなかったのか?」
「驚かせたかったので。それに、連絡差し上げようにも、私、その方の連絡先を知らないものですから」
根本的な部分が抜けていると思ったが、少女がそうしたいと思ったのであれば、俺は口を挟むべきことじゃないので、黙っていた。
「…あの、1つ、聞いても、いいですか?」
「プレゼントの相談なら、聞かないぞ」
「えう…」
出鼻を挫かれて、少女は少し涙目になる。
そもそも、俺に聞くのが間違いだ。
前にも一度、同じようなことを聞かれて答えた挙句、散々文句を言われて、弁償代を払えと言われたことがある。
要するに、全くセンスがないのだ。
だから、もう金輪際、プレゼントの相談は受けないことにしている。
「じゃ、じゃあ、質問を変えます」
「なんだ?」
「えっと、今、あなたが一番ほしいものって、ありますか?」
「もちろん、現金だ」
「えう…」
またもや、少女は涙目になる。
俺は、ウッハウッハな正月を過ごしたいが為に、こうしてバイトをしているのだ。
そんな今の状態で欲しいものがあれば聞かれれば、誰であろうと、金、マネー、福沢先生と答えるであろう。
まさに、愚問な質問だった。
「言っとくが、俺はまじめに答えたからな」
「…はい。わかっています」
とは言ったが、少女は本気でヘこんでいた。
「…そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」
別にそんなのはどうでもよかったのだが、周りから見て、少女が涙目になっている光景は、商売上と体裁的に良くないものだから、なんでもいいから話題を振りたかった。
「私、ですか?」
「お前以外に、誰がいるんだよ」
「えっと、苗字はいえないんですけど、サキミって言うんです」
「サキミ…」
どこかで聞き覚えがある名前だった。
遠い昔、とても大切な名前。
俺ではなく、一緒にいた女性が付けた名前。
「…随分と、珍しい名前だな」
「大切な、とても大切な、お気に入りの名前です」
「そうか」
俺は自分の名前に愛着はないから、サキミと名乗った少女の気持ちが理解できない。
「じゃあ今度は、あなたのお名前、教えてください」
「嫌だ」
「えう〜」
やばい。
今度は、確実に泣きそうになった。
でも、なんか癖になりそうだ。
……。
あかん。
今一瞬、とてつもなく危ないことを考えてしまった。
「えぐぅ…」
「…浩人だよ」
「えっ?」
「奥村浩人。それが、俺の名前だ」
「は、はい!」
サキミの顔がパアって明るくなって、目をきらきらさせて俺に寄ってきた。
な、なんだろうか?
「そ、そんなに嬉しいものか?」
「えへへ。はいですぅ〜」
何を考えているのかわからないが、危ないやつだ。
とかなんとかやっている間に、バイトの時間が終わり、店から給料と、売れ残ったチョコレートケーキを渡された。
「じゃあな」
「はい。また、会いましょうね」
もう会うことはないと思いながら、俺は右手だけを上げて、その場を去った。
「どうして、お前がこんなところにいるんだ?」
家に帰る途中の公園の前。
少しだけ居酒屋に寄って、一人身の寂しさを親父に愚痴って、すっきりした気分の状態で歩いていると、そこには、もう会うことはないと思っていた少女が立っていた。
手には、小さな包み紙を持って。
「私、これから行く場所の住所知らないから、ここで待っていれば来るかなって思って、待っていたんですよ」
「…誰を待っているんだよ?」
「奥村浩人さん、です」
「俺は、お前とは今日初めて会ったんだぞ。なのに、どうして俺を待っているんだよ」
サキミとは今までの人生の中で、一度も会ったこともない。
だから、サキミが俺を待っている理由が見当たらないのだ。
「…初めてじゃ、ないです」
新雪が積もっている地面を、サキミが俺に向かって歩いてくる。
「覚えていますか? 今から16年前に、あなたがお世話をした、一匹のハトのことを」
「16年前…。ハト…」
そのとき、俺の中に鮮明な映像が流れてきた。
それは暑い夏の日。
幼い頃の俺は、近くの神社を遊び場に、毎日のように遊んでいた。
ときどき、少しばかり年上の女の子と一緒に遊んでいた。
そんなとき、一匹のハトを世話することになった。
そいつの名前は…。
「思い出しましたか?」
「…何が言いたいんだ?」
サキミが言おうとしていることは、バカバカしいぐらい予想がつく。
現実には有り得ないことを、こいつは言おうとしている。
でも、俺はそれを受け入れようとしている。
あの人と同じ姿をしている、かつて世話をした、ハトの名前を持つ、この少女を。
「…お久しぶりです。ご主人様。私はかつて、あなた様にお世話になった、ハトのサキミです」
少女は、曇りが無い、真実を告げている目をして、改めて、自己紹介をした。
俺はそんな彼女と一緒に、家へと帰ったのであった。
<続>
K'SARS「どうもみなさま。おはこんばんちはー」
???「うわ、古!」
???「懐かしいわ」
K'SARS「おろ、名無しが2人」
???「あのね…」
???「うふふ。相変わらずですこと、作者さんは」
K'SARS「じゃあ、せっかくだから、自己紹介をどうぞ」
カナト「えっと、初めまして。僕は、スズメのカナトと言います」
ミナト「どうも。私は、白鳥のミナトと言います。以後、お見知りおきを」
K'SARS「うむ。何事も始めが肝心だからな」
カナト「ところで、どうして僕たちが呼ばれたわけ?」
ミナト「単に、出番がないだけだと思うけどね」
K'SARS「まあ、ミナトさんの言う通りだね。まず、時間軸が合わない。ミナトさんは、思いっきりこれに引っかかるからね。次に、このときには、まだカナトのご主人様は存在していた。そして、最大の理由は、2人以外のメインのキャラが登場するから。よって、2人はこの後書き専属となりました。ぱちぱちぱち」
カナト「嬉しくない…」
ミナト「となると、私はどっちのミナトになるんでしょうか?」
K'SARS「ミナトさんは、時間軸上、大の方になるかと」
ミナト「う〜ん。残念」
カナト「僕は、かなり久しぶりの登場だね」
K'SARS「ということで、後書きはこの3人で進めて行きますので、本編共々よろしくお願いします」
カナト「えっと、よ、よろしくじゃん!」
ミナト「よろよろ〜」
K'SARS「でははん!!」