俺たちは揃って夢を見ているんだろうか?
だとしたら、これほど性質が悪くて甘美な夢はないだろう。
「はや〜」
「お姉、ちゃん?」
「だな」
突然、俺と桃子の前にパジャマ姿で気持ちよく眠る女の子が現れた。
しかも、俺たちが最後に見た美夏の容姿のまま。
「どういうこと? なんで、死んだはずのお姉ちゃんが……」
「……守護天使」
「えっ? 何それ」
「俺もよくわかってないんだ。ただ、この場面で考えられる可能性がそれなんだ」
美夏は死んだ。
おぼろげながら、美夏と秋子の葬式と火葬された場面は覚えている。
そのときに、俺は確かに美夏の骨を拾った。
そっくりさんが居たとしても、ここまで同じ容姿はありえない。
何より、この少女から感じる雰囲気が美夏と同じなのだ。
以上の理由から、この少女がサキミと同じ守護天使と関連つけるのが自然。
「とりあえず、気持ちよさそうに寝ているところ悪いけど、起きてもらおうか」
「うん……」
俺は桃子から体を離して少女に近づく。
近づくと、ますます美夏に似ていた。
「お兄ちゃん、手、震えてるよ」
「……本当だ」
桃子に言われて自分の右手を見たら、小刻みに震えていた。
「大丈夫?」
「ああ。大丈夫」
強がってはみたが、徐々に気分が悪くなってきた。
自分でもすごく緊張しているのがわかる。
早く起こしたほうがよさそうだ。
ゆさゆさ。
「はやや〜〜」
結構強く揺すったのだが、少女は呻き声?みたいなのを発しただけで、起きる気配はなかった。
この辺りも、美夏とそっくりだ。
「起きないね……」
「……アレをやるか」
「アレ?」
「桃子もよく起こされたやつだよ」
美夏が生きていたときに、キスと同じぐらいよくやっていた起こし方がある。
だが、現物は持っていないから、代わりに手でやることにする。
むぎゅ。
「はや〜」
「あ、それね」
「洗濯ハサミがあれば使っていたんだけどな。今はこれだ」
震える右手で少女の頬を伸びるだけ伸ばした。
これでほぼ100%起きる。
そして、数秒後。
「痛いですの〜」
懐かしい声が、少女から漏れた。
同時に俺は少女から手を離す。
「何ですの〜? って、はやや?」
眠そうに目を擦った少女は起き上がり、俺たちを見て固まった。
それから数分後。
「ひろ、くん? もも、ちゃん?」
「お姉ちゃん、なの?」
「美夏、なのか?」
桃子はともかく、俺のことをひろくんと呼ぶ人間は美夏以外に居ない。
いくら外見が似ていて、守護天使だとしても、ひろくんと呼ばない。
だから、この少女は美夏でしかない。
「ひ、ひろく〜〜〜〜ん」
「うわっと」
少女は目に涙を浮かべて俺に抱きついてきた。
「ひろくんですの。ひろくんですの〜」
「美夏、なんだな」
「はいですの。美夏ですの〜〜」
瞬間、俺の中で感情が弾けた。
「美夏!」
俺も少女を強く抱き締めた。
「お姉ちゃん!」
桃子も少女に抱き着いて、しばらく3人で泣いていた。
<続>