日常ではありえない再会から数十分後。
俺と桃子は、目を真っ赤にした美夏と向き合っていた。
「はや~。久しぶりにたくさん泣きましたの」
「俺もだ」
「私なんて、今日2回目だよ」
声を出して泣いたのは、美夏と秋子の葬式以来。
それ以外だと、いつになるか思い出せない。
「それで美夏お姉ちゃん……でいいんだよね?」
「はいですの。私、ももちゃんのお姉ちゃんですの」
「でも、死んだよね?」
「はいですの。私、一度死んじゃいましたの。でも、こうして守護天使として転生しましたの」
と、能天気に美夏は語る。
雰囲気は美夏のままなのに、口調のせいか別人に思える。
「その辺り、詳しく説明してほしいな」
「そうだな。俺も知っておきたい」
「分かりましたの。と、その前に」
美夏は軽く目を閉じると、一瞬にしてパジャマ姿からサキミと同じデザインの青のメイド服に変わり、背中に純白の羽が現れた。
変わっているとしたら、両腕に赤いリボンを巻いているぐらい。
「これでよし、ですの」
「ほえ~。すごい」
「守護天使はみんなそんなことが出来るのか?」
「はや? ひろくん、守護天使のこと知ってますの?」
「ああ。少し前まで、ハトのサキミっていう守護天使がいたけど、今はめいどの世界に戻っているんだよ」
「はや~。サキミちゃんが、ひろくんの守護天使だったんですの?」
「サキミのこと、知ってるのか?」
「はいですの。私、サキミちゃんのルームメイトだったんですの。でも、サキミちゃん、ご主人様のところに行ってしまったので、部屋に1人で寂しかったんですの。あ、これ写真ですの」
どこから取り出したのか、美夏は俺たちに一枚の写真を差し出した。
そこには確かに、美夏とサキミが一緒に写っていた。
「可愛い娘。お兄ちゃん、この娘と居たの?」
「ああ。ほんの数日だったけど」
「……ふーん」
ジト目で桃子が俺を見る。
私のことは放って置いた癖に。
そんな感情が突き刺さる。
「ごほん。それよりも、どういうことか説明してくれないか?」
「はいですの。よいっしょっと」
美夏はポケットからキューブ状の物体を取り出して、それを慣れた手つきでいじる。
すると、キューブは徐々に形状変化して、ホワイトボードへとなった。
「す、すごい…」
「ですの。これはエンジェルツールと言いまして、持ち主の思いのまま形状を変えることが出来て、おまけに収納出来てしまうという、めっちゃ便利な道具ですの」
「なんだよ、そのご都合主義的な道具は」
「細かいことは気にしてはダメですの。えっと、こうしてっと」
美夏はどこからか取り出したマーカーで、ホワイトボードにせっせと書いていく。
生前と変わらない、綺麗な字だった。
「まず、私は人間の生を終えましたの。それから、私の魂は天へと昇りましたの。そこで、守護天使となっていたチカちゃんに会いましたの。そのときに、私の魂はチカちゃんと同化しましたの。なう、ですの」
「てい!」
「あいた、ですの」
あまりにも大雑把な説明に、俺は思わず美夏の脳天にチョップをかました。
「うう、痛いですの」
「真面目に説明しろ。端折り過ぎ」
「はや~。実のところ、私にもよくわかってないですの。チカちゃんと同化する以前の記憶があやふやになっていて、あとで女神様に説明されたのがこの構図なんですの」
「はい、お姉ちゃん。質問」
「はや? なんですの、ももちゃん」
「さっきから会話の中に、チカちゃんって出てくるけど、誰なの?」
「ももちゃん、覚えてませんの? 昔、家でペルシャネコ飼っていたこと」
「それは覚えているけど、それがどうして繋がるの?」
「うーん、まずはそこから説明致しますの」
美夏はももに守護天使はどういう風に誕生するのかを説明する。
守護天使は、かつて飼い主から受けた愛情を返すべく、魂の受け皿である、対象と関係の深い女性(チカの場合、ご主人様が俺、魂の受け皿が美夏)の肉体を借りて転生する。
それからめいどの世界(男ならしつじの世界)へと行き、厳しい修行をするらしい。
「チカちゃんは、ひろくんへ恩を返すためにがんばってましたの。でも、私が人間の生を終えたとメガミ様から告げられたら、すぐに私のところに来てくれましたの。そして、『私の体を使ってくださいですの、美夏様』って、言ってくれましたの」
「そうか、その口調はチカのを受け継いだのか」
「はいですの」
「うーん、イマイチよく分からないけど、つまりは、天使になったチカちゃんと魂の同化をして、お姉ちゃんがまた現世にやってこれたってこと?」
「そういうことですの」
さすがもも。美夏の言葉を解釈するのはお手の物だな。
他の人が聞いたら、まず解釈出来ない。その辺りは姉妹の意思疎通の賜物なんだろう。