ここは天界にある、男性守護天使の住むしつじの世界。
その中のとある一角に、動物をかたどったモニュメントがいくつもあった。
そして最近、また新しく1つ増えたのだが、その新しいモニュメントはカエルの形をしていた。
そのモニュメントをじっと見つめるメガミ様。
メガミ様「これはトノサマガエルでしたね。なんと勇敢な...他のカエルのために自らの命を投げ出すなんて。しかし、哀れにもあなたにはご主人様と呼べる方が存在していません。これでは転生する事もかなわないでしょう。残念ながら...」
その時、カエルのモニュメントが小刻みにゆれ始めた。
メガミ様「!?」
さらに、モニュメントにひびが入り、中から何やらうめき声のようなものが聞こえてきた。
???「ヌウウウ...」
メガミ様「ま、まさか...そんな事が...!」
守護天使が転生するためには、魂の受け皿となるモデルが必要であり、
なおかつそれをご主人様が思い出さなければ絶対に転生できないのだ。
したがって、自分のご主人様を持たない『彼』は絶対に転生できないはずだった。しかし...
???「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!」
グワッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!
何と!モニュメントが砕け散り、中から人影が!
メガミ様「な、なんという精神力...自力で呪縛を解いたというの...!?」
その人影は、20歳くらいの男だった。辺りをきょろきょろと見回して、
男「ありゃ?ここは誰?私はどこ?」
素っ頓狂な声でとぼける男。そんな男ののん気な様子を見たメガミ様は安心したようであった。
そして、男に向かって笑顔で語りかける。
メガミ様「ようこそ、しつじの世界へ。」
その後、メガミ様は男にしつじの世界を案内して回っていた。
男「クゥエル?それが俺の名前か?」
メガミ様「そうです。あなたが現世を去った後、あの教師があなたをそう名づけたのです。」
クゥエル「ふうん、いいんじゃない、結構イカす名前だし。それにしても、何で俺こんな姿なんだ?」
メガミ様「それは、あなたが強くイメージした姿が反映されたからです。例えば、その方と何か親密な関係にあったとか。」
クゥエル「別に。単にあの教師が行ってた学校の関係者で、ずっと前にたまたま見かけてちょっと男前だったんで、こんな人間になったら面白れえなとか思っただけ。たしか、キョーイクジッシューセーとか言ってたっけ。」
メガミ様「しかし、自力で転生を果たしたからには、何か強く思うところがあったはず。あなたの場合はるるの事ですね。」
クゥエル「ああ、あのアマガエルの事?べ、別に...関係ねえよ...」
急に口調が鈍った。たとえメガミ様でなくともクゥエルの本心はバレバレである。
メガミ様「フフフ、嘘がお下手ですね。」
クゥエルは、しつじの世界に来てから誰ともろくに口をきこうとしなかった。
雰囲気に馴染めないようではあったが、とりたてて問題を起こしているわけでもなかった。
しょっちゅう稽古をサボっては、お目付け役のひつ爺に怒られていたようだが。そんなある日...
天界のとある一角で神々が話し合いをしていた。
メガミ様「私は反対です!守護天使を戦いの道具に使おうなんて!」
神様1「君もしつこいね。このままでは冥府の連中に攻め込まれるのも時間の問題なのだよ。」
神様2「これに対抗するには、天界の総力を結集し、是が非でも究極の戦闘生物を
完成させなければならない。それも極秘にだ。」
神様3「そして、君の所にいるクゥエルこそ、我々が長年捜し求めていた最適の素体だ。天性の素質、他人のために命を投げ出せる勇気、そして自力で転生を果たした精神力、これほどの逸材を逃す手はない。」
メガミ様「し、しかし、あれは一歩間違えばこの世界、いいえ、宇宙全体の危機につながりかねない危険な代物です!」
神様1「くどい!これは既に決定事項なのだ!」
その話を聞いたクゥエルは、
クゥエル「究極の戦闘生物?へえ、面白そうじゃん。人間界でやってた特撮ヒーローみたいでさ。」
メガミ様「何を言ってるのです!もしそうなれば、あなたは死ぬまで戦い続ける事になるのですよ! 戦争の道具として...」
クゥエル「勘違いすんなよ。別にあんな連中の言いなりになるつもりはないね。
俺は俺のやりたいようにやる。強くしてもらえるんだったら好都合だ。」
だが、女神様はクゥエルの本当の想いに気づいていた。
メガミ様「あなた...もしかして、今でもるるの事を...るるのために強くなろうと...」
クゥエル「だ、だ、だから、か、関係ねえっての!!!」
本当に嘘の下手なクゥエルであった。