P.E.T.S[AS]

第5話「温泉旅行」

暖かい布団の感触……ぬくぬくと、それは私の身体と意識を優しく包み込んでいた。だが、その感覚は日常のそれとは少し違っていた。違和感が、遠い世界に埋没していた意識を呼び戻し、私は目を覚ました。
自宅と違う天井の模様……抹茶色の粗目模様が視界全体に広がっている。そして中央にあるのは細い木の枠で囲まれた四角い照明。
私はむっくり起きあがって、はだけかけた浴衣の乱れを直した。素肌に直に触れる布団の感触が妙に心地良い。これが違和感の原因だったか。
隣を見ると、私のと模様が少しだけ異なる布団が2枚。どちらもからっぽだった。

「む〜〜〜」

頭をぶんぶん振っても、ぼうっとした虚脱感が抜けきれない。これ以上やると頭がばさばさになる。やめよう……。

ごそっと襖の開く音がする。振り向くと、かすみちゃんがすでによそいき姿で立っていた。
フラワープリントの施されたうすピンクのワンピースを着て、襟元の前を小さなリボンで飾っているという、ちょっとしたおめかしさんだ。

かすみ「あの……おはようございます」
私「あ、おはよ。かすみちゃん」
かすみ「あの、もう朝ご飯ですから」
私「ええ!?」

ようやく頭がハッキリした。
栃木の温泉旅館に5人で泊まって早2日目、昨日初日はさんざんだった。
高速道路では約20キロの渋滞、ようやく一般に出たら助手席のロックが地図ナビゲート間違えるし、先生は先生で道に迷った途端すぐ私に運転押しつけるし!
日も落ちかけた頃にようやくチェックインして、温泉入って後は寝るだけの一日目だった。空しすぎ…。
だからこそ今日はうんと満喫しようと思ってたのに、よりにもよって私寝坊しましたか!?

私「朝ご飯って……ええ!? もう10時!?」
かすみ「は、はい。もう本来は食べ終えないといけない時間みたいで」
私「もっと早く起こしてくれてもいいのに〜〜〜!」
かすみ「そう思ったんですけど、真純先生が『昨日疲れてたみたいだから大いに寝かせとけ』って」
私「おかず絶対取られてるぅーーー!!」


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