結局、12時まで眠れた。気分もとりあえずはいい。
随分遅くなったけど、数年前オープンした遊園地に行くことになった。
到着先の遊園地は夏休みも終わりとあってか、さほどごった返しているわけでもない。
もうじき季節は秋を迎えつつあるが、今日もあいもかわらず太陽は強い日差しを私達に浴びせ続ける。
帽子をかぶってきて正解だった。
私「えっと、着いたね。今何時だっけ?」
ティコ「1時半ですね」
ティコが腕時計を見て言った。彼の綺麗な銀髪が日光で透き通るように輝いていた。
強い日差しにもティコはその端正な顔を少しも歪ませず、いたって涼しげな表情をしている。
おそらく標準以下の体力の私にはとても考えられなかった。
私「う~ん、あんまり見て回れないね。」
ロック「まずはあのジェットコースター乗ろうぜ!」
こちらの守護天使はもっと元気だ。ただ、182センチの大柄な男がおおはしゃぎしているのを見るのもなかなか滑稽で面白い。
私「ジェットコースターねぇ。う~ん……」
いかにもロックらしい希望ではある。
私はすぐ正面に悠然とそびえ立っているジェットコースターなる建造物を観察してみた。
………
あそこがスタート地点……。
んで、ずっと急降下して……。
あそこで宙返り………。
その先は……うっ……右回りの5連続渦回転……。
ジェットコースターからたびたび聞こえる絶叫が、さらに私の今下そうとする結論を確実なものにした。
私「ア、アハハハ……私ジェットコースターって乗ったことないんだよ。なんか怖いな。最初はもっと初心者向きのにしよ」
大体、私はそういうGが急変動する乗り物は好きじゃない。思い出せば、以前は遠足のバスでいつも青い顔をしていた。
ティコ「そうですよ。配慮がないですね、ロック」
ロック「う……」
と、いうわけでとりあえず時間を気にせず、ぷらぷらと遊園地を見てまわることになった。
しばらく歩くと、小型のボートに乗るアトラクションがあった。私にはこれくらいがちょうどいいのだ。
私「うわ~!これっておもしろいね~」
子供にも配慮した作りなのか、操縦はそう難しくない。
小型のエンジン付きのボートが三つ、仲良く並んで水面を泳ぐ。
でもロックはただ乗りまわしているだけじゃ物足りないようだった。
ロック「なあ、ティコ。突進していい?」
あくまでスリルを求める彼である。
ティコ「あなたそういうことしか興味ないんですか?」
私「ロックって突進してくるの好きだよね。私にも突進するし…ティコの事も大好きなんだね」
思い出せば、突進は彼の愛情表現だった。
ロック「大好きだぜ! ゴラァ! ティコォ! 俺の愛をくらえぇぇぇっ!」
ティコ「あなたホント好きですね、私をいじめるの……」
「お~、あの高い鉄塔みたいなのなんだ?」
ボートを終えて再び歩き回っていると、人だかりの中にロックの指さす高い塔が見える。
ビル何階分の高さかはわからないが、天を仰がないとてっぺんが見えないくらいに高い、人工物がそこにあった。
私「あれはバンジージャンプだね~」
そう答えながら気の遠くなるような高さの塔のてっぺんを見上げると、一瞬私の意識も飛びそうになる。あんなとこから身投げしてなにが楽しいのか……
ロック「ばんじ~?」
私「あのてっぺんまで登ってね、まっさかさまに落っこちるんだよ♪」
世界一単純な遊びかもしれない。
ティコ「スリルのために、そこまで……」
ティコがあきれたようにつぶやく。ま、楽しいと思う人もいるからあるんでしょうな~。
ロック「フッ、その『ばんじ~』とかいうのがオレを呼んでるぜ」
ティコ「はい?」
ティコがおもわず聞き返す。対するロックはバンジージャンプ台に向かって不敵な笑みを浮かべている。どうやらロックもアレを楽しむタイプのようだ。
ロック「俺やってくる!ティコ、お前もやるか?」
ティコ「断固、遠慮します」
即答で誘いを断るティコ。スリルなんてのにはさらさら興味がないらしい。
ロック「へっ、男のくせにだらしのねぇ…じゃ、美月。ここで見ててくれ! 俺の勇姿を!」
私「あ、うん。無茶しないでね」
ロックがさっそうとバンジー台へ駆けていった。
ティコ「バカは高いところを好むっていいますからね」
さっきのボートの事を根に持っているのか、さらりと冷たく言い放つティコ。
私「私、バカにはなりたくないな……」
ティコ「それが賢明です」
あくまで高みならぬ低みの見物を決め込む二人である。
私「あ、あれロックかな?」
すでに小さくなった人影を指差す。すごいスピードで鉄塔を上っていく彼の姿があった。
ティコ「そうみたいですね。あ、早いですね。もうてっぺんに登りましたよ」
………
あれ?
なんだか様子がおかしい……なにやら係員らしき人が慌てふためいて……?
私「あ!ロック、命綱のゴムつけてないよ!」
ティコ「正真正銘のバカですね」
あのう……ティコさん?……心配じゃないの?
ロック「ふう~、あぶねえあぶねえ、危うく死ぬとこだったぜ」
ティコ「係員の指示の前に飛び降りようとするからです」
あのあと、無難にバンジーは成功した。念のため。
私「とにかく、無事で良かったよ。次はどこにしようか」
ロック「う~んと」
ロックがなにやらしきりに私のうしろの方を眺めている。彼の希望がそこにあることは明白だった。
私「ロック、ジェットコースター乗りたい?」
ロック「あ、え?」
私の意外な発言に、めずらしくロックは戸惑いを見せる。
私「乗りたいって顔してる。あのジェットコースターの方ばっか見てるんだもん」
いつの間にか遊園地を一周していたのだ。
ティコ「またご主人様をほったらかしにするんじゃありませんよ、ロック」
ティコが軽くロックを諌めるが、私は何故か少し、冒険してみたい気分だった。
「ううん。ちょっと私も乗ってみようと思うんだ~」