?「美月ぃ……へへ……おかえりィ……」
自分の全力の愛情表現を主人に避けられたにもかかわらず、彼は愛想良く私を迎え入れるのだ。本当にかわいい。
私「ロック! いい加減、全速力で走って、飛びついてくるのやめなさいな。私を潰す気?」
ロック「あははははは……」
彼はコロコロと笑う。何度言っても改めようとしないんだから……。
この男の子の名前はロック。私を災いから守るためにやってきた守護天使だ(でも災いって何だろ?)。
ぴんと跳ねた髪。
大きな体。
鍛え上げられた筋肉。
前世、元気一杯のベルジアン・タービュレンという犬種だった彼は、レスラーといっても通用するかのような体格をしている。実際、力仕事なら彼の出番だ。この前なんて、故障した冷蔵庫を軽々持ち上げてしまった。
性格はごらんの通りの猪突猛進。私のことが大好きなのはいいんだけど、これじゃスキンシップも命がけだよ……。
私「全く、進歩がないんだもの」
?「まったくですねぇ……」
近くで声が聞こえる。いつの間に来たのやら、もう一人の私の忠実なしもべ、もとい、忠実な守護天使が私を迎える。
?「お帰りなさいませ。ご主人様。ご無事にお戻りになってなによりです」
ロック「おおおお!?ティコ!おめえ、いつの間に!?俺の台詞とるんじゃねえよ!」
ティコ「ロック、そういうあなたも、いい加減その習慣を改めなさい。転生前とは違うんですよ」
さらりと言ってのけ、ティコと呼ばれた守護天使は髪をかき上げる。
綺麗な髪。彼の髪は上の方と下の方で、色が分かれている。下の色は黒だが、上の髪の毛は銀髪で、その独特の髪型は何か動物の大きな耳を思わせる。彼の動きに合わせて髪も動くと、まるでその耳が生きているかのようだ。
背はロックと同じか少し低いくらい。でもスラリとした体形なので、とても長身に見える。
彼のエレガントさはあらゆるしぐさにも表れる。髪をかき上げる、腰に手を当てる、コーヒーカップを手に取る時まで、本人は意識していなくても、ありとあらゆるどんな時にも「絵になる」。
とにかく、うっとりするほどの美形に生まれ変わってしまった。それもただ美しいだけでなく、どこかミステリアスな雰囲気も漂わせている。ちなみに彼の前世はシャム猫である。
ロック「ううぅ……」
ロックは寂しそうな顔をしてうなだれる。確かに、彼が前世犬だった頃はなにかと全速力で私にぶつかってきた。小さかった私はその愛情表現を受け止めきれず、そのまま押し倒されるのだが、そんな彼がかわいくてたまらなかった。
もっとも、今は押し倒されると、意味が違っちゃうんだけど・・・
ロックはティコとずいぶん印象が違うけど、ワイルドな中にもやはり美しさを兼ね備えている。美男ばっか……うれしいんだけど。
私「はい、ロック。手貸してあげるから、いい加減起きなさい。」
ロック「おう☆ ありがとな、美月」
立ち直りの早い……ロックはご主人様の手を握り、フフンとティコをチラ見する。ティコはやれやれ、といった様子……。
ティコ「それと、美月、と呼び捨てにするのはやめて、ご主人様と呼びなさいと、いつもあれほど言ってるでしょう。どうして守れないんですか」
ロック「いや、名前で呼ぶのは俺の愛情表現だ! これだけは譲れねぇ!」
ティコ「意味不明です!」
私「あははは……いいって、別に」
二人の言い合いはいつものこと。でも、冷静で大人びたティコも、こういうときばかりはロックと一緒になって年相応の少年っぽさが出てくる。そんな二人が、私は大好きだった。
私「さあ、二人とも、帰ろう♪」