The THING beyond DEATH

第5話「Sacred Ambition」 〜 暗躍者は笑う 〜

一人になったレオンは、何を思ったか、もう一度神々の居る神殿の空間に移動して、気分転換を図ろうとした。
しかし、もう一人の謎の人物がそこに立っている事を知り、何らかの力で誘導されたことに気付く。

「Rか……」
「怪我はもう良いのか? レオン」

任務で会った時と同じように、マントに身を包んだ『子供』がそこに立っていた。

「ひとつ聞きたいが……お前も守護天使ではないのか?」
「いや、私はあのゼフィルスとは違う。お前たちと同じ守護天使だ。階級は私の方が上かもしれないが……」

 澄んだ声が神殿に響いた。こんな子供に、自分たちは救われた。
 この「R」の能力は二人の理解を超える物だった。
 我々より格上なことは確かで、下手をすればメガミにも匹敵するものではないかとさえ、思えた。
 魔界の妨害システムをたった一人で無効化し、天界側との通信を確保し、ゲートすら自分で開いたのだ。
 魔界に降り立った時、ゲートも閉じられ、連絡も取れず、と来た時にはフェンリルはいよいよ自分たちを捨て駒にしたか、とさえ思ったが、この「R」の派遣こそが帰還の切り札だったということか……。
 もしかしたらこの子供の姿は、何かのカモフラージュか?

「もう動き回っているとは……たいした回復力だな」
「謎が多いと、いてもたってもいられなくてね。それはそうと……お前には感謝しなくちゃな。俺たちだけでは帰還用のゲートを開ける術さえなかった」
「礼には及ばない。仕事なのでね……そう、一つの謎に答えておこう」
「なんだ?」
「君が、あれだけ満身創痍になってもまだ動けた理由だ」

 レオンは驚いた。やはり、あれはランナーズハイなどではなく、理由があったのか。

「天使銃には、持ち主の体力を回復させる効果がある」
「天使銃に?」
「いや、正確には、その銃に込められた弾丸に、だが……」
「あの弾丸はなんだったんだ? サキがあれだけ痛めつけても死ななかった、あの怪物が……一瞬で溶けちまった」
「死ねない存在を消す弾丸……とでも言っておこう」
「なんだって!?」

「不死身の生物兵器」の存在を恐れていたレオンとセリーナだったが、それに対抗する手段がすでに存在する!?

「天使銃とはなんだ! 誰が作った! お前は一体、なんなのだ」
「天使銃とその弾丸は、ある危機を回避するため、一人の夢魔が作った。そして私はフェンリルにとって、単なる外部戦力に過ぎん。一介の大天使だ」

 夢魔? イリノアのことか? いや、彼は封冠技師だが、武器は扱わなかったはずだ。レオンは混乱するばかりだった。

「まだ質問がある。お前は……」
「今回は軽い挨拶だ。もう行かなくてはならない。質問はいずれまた受け付けよう。近いうちに、また会うはずだから」
「まて、R!」
「そう、私の事はラエルと呼んでくれ。Rはただのコードネームなのでね」

 そういうか言わないかのうちに、ラエルはテレポートで消えてしまった。

 暫くの静寂が辺りを満たす。レオンは両手で頭を抑え、なにやら考えていたが、しばらくすると考えがまとまったのか、神々の間を出て、神殿の入り口まで歩き出した。
 そして、封冠通話をオンにする。

「セリーナ、頼みがある」
「なぁに?」
「俺を鍛えてくれ」
「レオン……」
「かつての俺の教官、レディ・サラはもうこの世に居ない。今回の任務で痛感したよ。今の俺のレベルでは……サキを守りきれない。これからの戦いでは、今までの常識が通用しない化け物みたいな奴らが相手になる。そんな奴らから……サキを守りたい」

暫くの間を置いて、セリーナの笑い声が聞こえた。

「あっはは……。やる気になってくれて嬉しいわ。ただし、やるなら手加減はなしよ。私も忙しい身だから、週1に数時間くらいが限度だけど……あるいは、貴方にとってよい訓練相手になれるランサーを探してみるわ」
「恩に着る」

神殿を出て、レオンは太陽に向かって大きく伸びをした。ふと、自分の左手を見た。呪詛悪魔ジードによって負わされた左手の傷。丁寧に包帯が巻かれているが、まだ強い痛みが残っていた。

「くそ……いやな予感がしやがる……」

謎の呪詛悪魔組織、謎の神官、敵か味方か分からぬ、謎の大天使。分からない事だらけだった。
だが、いずれ近いうちにそれらの謎が明らかになることは、レオンの直感が悟っていた。そして、大きな陰謀が、呪詛悪魔たちの間だけでなく、天界側にも渦巻いている事にも……。

役所の世界の入り口まで来た所で、封冠通話の一般回線あてに連絡が入る。
病院からだった。「サキが目を覚ました」とのことだった。

事件は、これから始まるのだ。

 


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