黒猫は夏が嫌いなんです。

第5話「※彼女が持ってるのは竹刀です」

 いざ勝負が始まってみると、私の圧勝だった。
最初に飛び掛ってきた三人を一人ずつ竹刀であしらっていき完全にのしたあと、剣道部員ではないのに竹刀を持っていた奴と刀を合わせる。数度打ち合いをした後、向こうは大上段から斬りかかろうとしてきた。なかなかの腕前だったが、それでも私には到底及ばない。大きく振り上げた刃の下をかいくぐり、刃が振り下ろされた瞬間バク転をしつつ男子の鳩尾(みぞおち)に寸分の狂いも無く蹴りを叩き込む。
 余談だが、一流のプレイヤーである朱と一緒に戦ったときにこれをやると「沙都紀パンツ丸見えー!」と怒られるのである。まあ私は特に気にしないが。
 四人をKOし、残りは三人と女のみ。半数が既にやられたにも関わらず未だ女は余裕の笑みを浮かべている。どんだけバカなんだ、こいつ?

「今度は私から行かせてもらおう。父譲りの技だ」

 本物の刀ではないから威力は落ちるだろうが……コイツらを撃退するには十分だ。

「<炎帝・我龍走破(エンテイ・ガリュウソウハ)>!!」
「ぐっ!? ぐあああああッッッ!!!」

 私が竹刀を薙ぎ払ったと同時、紅蓮の龍が三人の男子に向けて迸った。実際に炎でできているわけではないが、彼らにショックを与えるには十分な威力と見た目だった。彼ら三人はまとめてそこらの木立へと吹っ飛んでいった。そして、手下が全員やられて顔を引きつらせる女に竹刀を向ける。

「どうする? お前も私と戦(や)るか? 戦らないほうが無難だと思うが」

 それに私の知ってる人間もここにいることだし、と周辺の木立の様子を窺う。彼女は「う……」と一瞬ひるんだ後、踵を返し倒れてる男など全く気にせずに全力疾走していった。


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