黒猫は夏が嫌いなんです。

第3話「朱・黒猫・そして私と……新キャラ。」

 ルイの衝撃的な一言——「俺の沙都紀に手ぇ出したらコロス」の後、クラス中が居心地の悪い沈黙に包まれていた。
ああ、終わった。私の平和な青春まず間違いなく今この瞬間に終わった。
 朱以外の女子からは突き刺さるような視線、当の朱からはニヤニヤという面白がるような視線(理由:面白いから、もう彼氏いるから)、男子からは「エッ!?」というような驚愕の視線、そして全ての元凶たるルイにいたっては状況が理解できていないがためにぼーっとしている。
 助け→0、敵→19、中立→21(先生込み)。さてこの状況どうするか。……そしてどうもできないのが現状かつ私の限界だった。

 この沈黙、まず最初に口を開いた奴が負ける。

そんなところで一番辛い役目を引き受けたのは、驚くべきことに朱だった。

「はーい先生っ、あと30秒で授業始まるんすけど終わんないんですかーっ?」

 彼女はがたりと無邪気な笑みで挙手し、そうオジサン教師に物申した。先生は我に返ったか少し上ずった声で、

「あ……そ、そうか。日直、号令。終わらせるぞ」
「……きりーつ」

 みんな納得のいっていない様子でがたがたと立ち上がる。礼、と日直が言うと、みんなおざなりな態度で礼、そして椅子に再び座る者もいれば友達のところへいく——おそらく瑠依のあの衝撃発言について話し合うつもりだろう——者もあった。まあどうせあと10秒ほどで本鈴が……「キーンコーンカーンコーン」……ほらな。
再び教室の前のほうへ目をやると、落ち着かなさそうに黒板の前をうろうろしている不審者(ルイ)がいた。私ははぁと深いため息を吐き、

「瑠依、ここ座れ」

 と、左横の空席を指差すのだった。

 

 

 そして待ちに待った昼休み。いつもは朱、そして朱の彼氏である隣のクラスの男子、八艸 巳月(ヤサガ・ミツキ)と私の三人なのだが、今日は瑠依もいた。
因みに瑠依を私たち四人の中に引っ張ってこようとした際に起こった騒ぎについては……言及せずともわかってくれるだろう。私は信じてる。
 女子ってこんなに怖いもんなんだと学ばされた。

「彼が噂の転校生ですか。転校初日で学年中に噂が広まり半分生ける伝説と化している転校生……七延君。そんなに凄い人柄をお持ちのようには見えませんが」

 私の対面でそう丁寧口調で嘯くのは八艸 巳月。家の方針か何かで男でも髪は伸ばすことになっているらしく、うなじのところで結った長髪が特徴的なイケメン、ならぬ朱の彼氏である。

「というかそんなに噂が回ってたのか。……嗚呼、明日からが思いやられる……」
「もう既に十分頭がいたい状況な上に本人無自覚だしねー」
「?」
「……はぁ」

 朱のいうことは尤(もっと)もだった。瑠依は自分が何を言ったのか全く理解してない(本当にそういうわけではないだろうが、自分が言ったことの重要性を理解していない)し、周囲の女子からは今でも刺すような視線が送られてきてるし。

「沙都紀、コイツら一体誰だ」

 昨日のようなむきだしの態度ではなく、どこか警戒しているような声音で瑠依。つくづく猫そのものだと思う。
猫は知らない人間にやすやすとは好意を抱かない。猫時代——前世、というべきか——も、私が家に友達を連れて行くときまって押入れやソファーの裏などに隠れたものだった。昔はそれを強引に引っ張り出してじたばたするルイを朱などに見せて姉に怒られたものだが……。

「あたしは双六 朱っ。沙都紀の幼馴染だよ、よろしくねっ瑠依君っ」
「俺は八艸 巳月です。隣のクラスの住人ですが、沙都紀さんのご友人ということもあり興味がありまして。よろしくお見知りおきを」
「この二人は私の友人。お前にも私にも(多分)危害は加えないから(多分)大丈夫だ」

 まあ朱は拳闘部主将、巳月は帰宅部だが自称「一家一の実力」ということなので全く危険がないということにはならないのだが。巳月はともかく、朱は朝のボディブローに始まり危険極まりない。
今後も関わりの深くなりそうな二人に対し瑠依が警戒心むき出しなのが、私には不安すぎて仕方が無いのだった。


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