きよく!ただしく!!

呪詛悪魔編 第七話「それぞれの過去」

行くとちゅう、元樹の部屋のドアが空いてたのでのぞくと
元樹が窓から外を見ていた。
その顔は実に哀しそうだ。
気配に気付いたらしく、外を見たまま元樹は口を開いた。

元樹「・・・・眠れないのか?」
妃皇子「えぇ・・・・元樹も?」

ドアにもたれかかる妃皇子。

元樹「・・・・・あぁ。」

しばしの沈黙。

妃皇子「・・・・・夢、見たの。」
元樹「夢?」
妃皇子「昔の・・・・夢。」

うつむいたまま妃皇子は続けた。

妃皇子「真っ暗なの・・真っ暗で、何も見えない。」
元樹「・・・・・猫・・・だったんだろ?」

元樹はまだ外を見ている。

妃皇子「えぇ、それも耳の先からしっぽの先まで真っ黒な黒猫。
     人間みんなから気味悪がられたわ。
     不幸を招くって・・・・」
元樹「・・・・・」
妃皇子「私がいたのは、人間界では『ヨーロッパ』ってところだったの。
     当時私の町で『魔女狩り』という出来事があってね・・
     宗教とか思想とか、そんなもののために私は殺された。
     見せしめのために、町の真ん中で火の中に・・・・」

手に力がこもる。

妃皇子「・・・ごめんなさい。あなたにこんなこといっても仕方ないわね。」

黙って聞いてきた元樹が口を開く。

元樹「・・・・赤い月、見たことあるか?」
妃皇子「え?」
元樹「僕は見た。無気味に笑う唇のような真紅の三日月を・・・」

外を見つづけながら元樹は話しつづけた。

元樹「僕がいたのは大きな研究所だった。
   そこでは日夜動物実験が行われていた。
   僕の家族や仲間のモルモットたちも
   人間のために多くの病原菌や認可されていないワクチンを
   投与され、死んでいった。
   でも僕は、それは仕方ないことだと思っていた。
   モルモットとして生まれた自分の運命だと・・・
   でも・・・・あの日がやってきた。」
妃皇子「あの日?」
元樹「別のフロアで実験中に爆発事故が起こり
    研究所は火の海となった。
    人間たちは我先にと避難し、僕たちは置き去りにされた。
    部屋中に煙が充満し、回りのゲージの中で苦しむサンプル達。
    僕の母さんも妹も弟達もドンドン死んでいった・・・」
妃皇子「・・・・・」
元樹「人間にとって僕らは単なる消耗品だった。
   代わりなんかそこらへんにゴロゴロしている。
   やつらにとって僕らの命なんて眼中になかったってことだ。」

元樹の肩が心なしか震えているように見えた。

元樹「・・・守護天使・・・・か・・・・・」
妃皇子「え?」
元樹「いや・・・・何でもない。」

妃皇子が部屋に入り、元樹の背後に立った。

妃皇子「ねぇ・・・あなたのシナリオ、ちょっと書き換えて欲しいんだけど。」
元樹「ん?」

振り返る元樹。

妃皇子「ちょっとやりたいことがあるの。
     大丈夫、あなたの計画に支障をきたすようなことはしないわ。
     どんなショーでも幕間の休憩が必要でしょ?」

妃皇子の顔をまっすぐに見つめ、いつもの嘲笑を浮かべた元樹。

元樹「いいだろう。でも。楽しい休憩にしてくれよ。」
妃皇子「もちろん・・・・・」

艶やかな笑みを浮かべる妃皇子。

そんな二人を細い三日月の光が静かに包んでいた。

 

つづく


Otogi Story Index - シリーズ小説 - きよく!ただしく!!