パァン!パパァ〜ン!!!
ぬけるような青空に恵まれたとある日曜日。
今日は千田達の住む町内会主催の運動会が開かれている。
ちょうど今、成人男子による徒競走が行われている。
きよ「おにぃ〜ちゃぁ〜〜〜ん、がんばれぇ〜〜〜!!!」
恵「千田くぅ〜〜ん、もっとスピードあげてぇ〜〜!!!!」
きよと恵の黄色い声援が飛ぶ。
しかし当の本人はそんなこと聞いている暇がない。
千田「ハァハァハァ・・・・」
結果、6人中5位。散々な結果であった。
参加賞の洗剤をもらい、トボトボと恵達のところに戻る。
千田「ハァハァ・・・・あぁ〜、辛かった。」
恵「だらしないわねぇ。
あのメンバーの中で一番若い君がそんなんでどうすんのよ。」
千田「そうは言ってもさ・・ハァハァ・・・いつもバイトばっかで・ハァハァ・・
運動する時間なんて・・ハァハァ・・なかったんだから・・・」
きよ「ハイ、お兄ちゃん。冷たいお茶やで。」
コップをさしだすきよ。
千田「あぁ・・・ありがとう。」
コップを受け取り、一気に飲み干す。
アナウンス『続いて、成人女子による借り物競争を行います。
参加される方は入場門にお集まりください。』
恵「よっしゃ、いっちょやったるか。」
きよ「恵お姉ちゃん、頑張ってや。」
恵「まっかせなさぁ〜〜い。」
意気揚々と入場門に向かう恵。
千田「すごい自信だね、恵ちゃん。」
きよ「なんせ一位やったら、豪華景品らしいもん。
お兄ちゃんも今度は頑張ってや☆」
千田「・・・・・努力します。」
係りの人「位置に着いて、よ〜い・・・」
パァ〜ン!!
恵達のグループがスタートをきった。
はじめからとばす恵は借り物が書いてあるカードまでは一番だった。
恵「へっへぇ〜ん、ちょろいちょろいっと。さて、なにを持ってくるんだ?」
カードをめくる恵。
恵「イィッ!?」
カードにはこう書いてあった。
『夫、または恋人』
恵(ナ、ナ、ナ、何なのよこのカードは!?)
呆然と立ち尽くす恵。
追いついてきた人たちに次々と抜かれていく。
恵(ど、ど、ど、どうしよ〜〜〜)
困惑する恵に向かってきよと千田が声援を送る。
きよ「おねぇちゃぁ〜ん、ファァイットォォ!!」
千田「急ぐんだ、恵ちゃぁ〜ん!!」
と、ふっきれる恵。
恵「もぉぉぉ〜〜〜、なるようになれ!!」
全速力で千田達の元に走り寄る恵。
恵「千田君、来て!!!!」
千田「へ?」
千田の腕をつかむと一気にゴールに向かって突進した。
千田「わわわわわわわ・・・・・・」
ほとんど引きずられている状態の千田。
結果、見事一位となった。
恵「ハァハァハァ・・・やったわ。」
汗まみれの恵。おそらくそれは走ったからかいたのではないだろう。
千田「ハァハァ・・おめでとう、恵ちゃん。」
恵「ハァハァハァ・・・ど〜も。」
千田「ところでさ、カードになんて書いてあったの?」
恵「ヘッ?!」
とっさにカードを隠す恵。
恵「と・・となりの人。そう、となりの人って書いてあったのよ。」
千田「なるほど・・・だから僕だったんだね。」
恵「そ・・・そういうこと。」
2人の元にきよが走り寄ってくる。
きよ「お姉ちゃん、すっごいやん!!ホンマに一位とるやなんて。」
恵「へへへ・・・ありがと、きよちゃん。」
きよ「よっしゃ、こうなったらうちも頑張るでぇ〜〜!」
千田「へ?きよちゃんも出るの?」
きよ「うん!!次はちっちゃい子のかけっこやから、
うちも一位とって豪華景品をゲットや☆」
恵「千田君よりは頼りになりそうねぇ。」
千田「・・・・が、頑張ってね、きよちゃん。」
きよ「うん!!」
ガッツポーズをして、入場門に走っていくきよ。
スタートラインに立つきよ。
千田「きよちゃぁ〜ん、がんばれぇ〜〜!!」
恵「ファイト♪ファイト♪きっよっちゃぁ〜〜ん!!」
きよ「よっしゃ、やったるでぇ〜〜〜。」
きよの瞳に炎がもえたぎる。
係りの人「位置に着いて、よ〜い・・・」
パァ〜ン!!
一斉に走り出す。
きよちゃんが一歩前に出る。
千田「やった・・あれ?」
となりを走っていた、きよと同じくらいの男の子がきよを抜く。
恵「うむう、なかなかやるわねあのコ・・きよちゃん、がんばれぇ!!」
きよが抜き返すとまたその男の子が前に出る。
二人のデッドヒートに千田と恵は息を飲む。
ゴールまで10メートル、5メートル、3メートル、そして・・・・
きよ「やったぁ〜〜!!!」
ちょっとの差できよが一位となった。
千田&恵「やったぁ〜〜〜!!!」
手を取り合って喜ぶ千田と恵。
景品を持って二人に駆け寄るきよ。
きよ「やった!やったでぇ〜〜!!うち、一位とったでぇ。」
千田「おめでとう、きよちゃん。」
恵「やるじゃん、きよちゃん。あたしハラハラしちゃったよ。」
きよ「へへぇ〜ん。」
二人に誉められまんざらでもない顔をするきよ。と・・・
男の子「エェ〜ン、エェ〜ン・・・」
振り返ると、さっき最後まできよと張り合っていた男の子が泣いている。
かたわらで母親らしい女の人が慰めている。
女性「元樹ちゃん、しょうがないでしょ。負けちゃったんだから。」
どうやら男の子の名前は元樹(もとき)というらしい。
元樹「だってだって・・僕、一生懸命頑張ったのにぃ〜〜。」
元樹は泣き止もうとしない。
女性「ハァ〜、どうしましょう・・・」
きよが元樹に近づき、景品をさしだす。
元樹「ふぇ?」
きよ「ハイ、うちのあげるわ。」
女性「でも、それはあなたが頑張ってとったものでしょ?」
きよ「ええねん、ええねん。うちにはもう一個あるし。せやから・・・」
元樹「いいの?」
笑顔でうなずくきよ。
元樹「ありがとう!!」
泣き顔が笑顔に変わった。