きよが家を出て、約一時間がたった。
その間、千田はとっぷりと日が暮れた街の中を必死に探した。
公園、コンビニ、商店街・・思いつくところを手当たり次第に探した。
しかしどこにもきよの姿はなかった。
肩を落とし、アパートに戻った千田。
ドアをあけると奥から恵が顔を出した。
恵「千田君!どこ行ってたの?ねぇ、一体何がどうなったの?」
千田「・・・・・・」
千田は何も言わず、ただ恵を見つめている。
恵「ねぇ、一体ここで何があったのよ?
あたし何も覚えてないの。妃皇子さんの家でおしゃべりしてて
そしたら急に意識がなくなって、気がついたらここにいたの。
ねぇ、千田君・・・・」
千田「・・・・・・」
恵「千田君!黙ってないで何か言ってよ!!ねぇ!!」
千田は恵の横をすり抜け、洗面台へ向かった。
蛇口をいっぱいにひねり、
滝のように流れ出る水の中に自分の頭を突っ込んだ。
そしてしばらく千田は顔をあげなかった。
恵「千田君・・・・」
恵の声にはじめて千田が反応した。
千田「何も・・・憶えてないんだね。」
恵「え?」
千田「ここで何が起こったか・・何も憶えてないんだよね。」
千田が顔をあげた。
その顔はビショビショに濡れている。
水、汗、涙。全てが入り混じっている。
千田「きよちゃんが・・・呪詛悪魔達にさらわれた。」
弱々しい声で、千田はポツリと言った。
そして、それ以上は何も言わなかった。
恵の顔がみるみるうちに青ざめていった。
恵「そんな・・一体どうして・・・・・」
千田は黙っていた。
もし本当のことを言ったら恵はどう思うだろう。
無意識のうちに千田とキスをし、そのせいできよが出て行った・・・
おそらく恵は罪の意識に苛まれるだろう。
千田は、そのことを決して口外しようとしなかった。
恵「それで・・・見つかったの?きよちゃん。」
千田「いや・・思い当たるところは全て探したんだけど・・・」
重苦しい雰囲気が部屋中に広がる。
恵「きよちゃんをさらったのって、やっぱりこないだのあいつら?」
千田「いや・・・あいつらじゃない。あいつらは、操られてたんだ。
あいつらはただの人間だよ。」
恵「?どういうこと??」
千田「呪詛悪魔の中に、催眠術みたいなものを使うやつがいるんだ。
きっとそいつの力で操られてたんだと思う。」
千田には全てがわかっていた。
さっき恵の肩越しに見た2つの影。あれが今回の事件の黒幕だと。
千田「呪詛悪魔は何食わぬ顔で僕らに近づき、
今回の計画を実行した。
巧妙に仕組まれたきよちゃん誘拐・・・
僕等はまんまとあの人たちに騙されていたんだ。」
恵「あの人たちって?」
恵が問いかけた次の瞬間、
元樹『誉めてくれてありがとう、千田お兄ちゃん・・・』
千田・恵「!!」
窓の外から気きなれた声が聞こえた。
その窓の先は何もないはず・・しかし確かに声はそこから聞こえた。
千田がゆっくりと窓を開けた。