その日、王(ワン)はベランダで星を見ていた。
ただ王の場合この星を見るという行為は一般の人間のものとは違い、王の特殊な力で人の運命のようなものを星の並びとして「見る」ことができるのである。
今日は1年ぶりに自分の運命を「見て」いた。
志摩「ご主人様、お茶が入りましたよ」
盆に載せた日本茶をテーブルの上に置きながら、志摩は王に声をかけた
王「ありがとう志摩」
王はベランダから戻り、席に着いた
志摩「どうでしたかご主人様?何か見えました?」
王「ああ、面白いものが見えたよ。」
志摩「わぁ、どんなことが見えたんですかご主人様。」
王「そうだね、これは志摩にも関係あることだから話しておかないとね。実は、私には志摩の他にも守護天使がいるみたいなんだ。」
志摩「ホントですか!?ご主人様」
王「ああ、それも近々出会えるみたいなんだ。」
志摩「それじゃあ、もっともっとご主人様のお世話ができるようになりますね。」
王「そうだね、これで志摩の負担が少しは減るかな。」
志摩「そんな!志摩は今まで以上にがんばりますよ。」
王「はは、ありがとう、でも無理はしちゃだめだよ。」
息巻いている志摩の頭を王は優しく撫でてあげた
一方その頃、自分たちがご主人様の話に上っていることなど露知らない守護天使二人は…道に迷っていた!
ヒカル「ん〜、さっきまでご主人様の星、見えてたのにな〜、ご主人様「見る」のやめちゃったのかな?」
マヤ「でもこの近くなのは間違いないのよね?」
ヒカル「うん!それは間違いないよ!」
マヤ「それなら、地道に探しましょう。」
ヒカル「地道にかぁ…あ、だったら」
そういうとヒカルは鼻をすぴすぴさせ始めた
ゴス!!
ヒカル「ぶっ!?」
だがその行為はマヤの後頭部へのチョップで中断された
マヤ「女の子が街中で鼻を鳴らしてはいけません!」
ヒカル「うぅ〜、ご主人様の匂いで探そうと思ったのにぃ…」
マヤ「犬の守護天使とかならまだしも、蛍の守護天使であるヒカルさんでは無理でしょう」
ヒカル「ふっふっふ〜、はるか遠くの水の匂いすら嗅ぎ分けるという、蛍の嗅覚をなめてもらっては困るな、ワトソン君。」
マヤ「誰がワトソンですか!というかそれは迷信でしょう」
ヒカル「え!?嘘なの!?」
マヤ「いえ、嘘とは言いませんが…自分の前世なのですからヒカルさんが一番わかるでしょう?」
ヒカル「そういえば、特にそういう感じはしなかったかも…」
マヤ「まぁ、今はその話はどうでもいいことです、まずはご主人様を見つけないと…」
ヒカル「あ、そうだった、でもそうなるとどうやって探そう」
マヤ「本気だったんですか(汗)」
ヒカル「え?なにが?」
マヤ「はぁ、相変わらずですね…とりあえず手分けして…」
ヒカル「手分けして探すんだね!」
言うが早いかヒカルは駆け出した。
だがこれはいつものパターンなのでマヤは慣れたものでヒカルの襟首をひっ捕まえる。
マヤ「と、手分けするとヒカルさんが迷子になるので、一緒に探しましょうね」
ヒカル「え、でも…」
マヤ「ね。」
ヒカル「は、はい…」
と、そんなこんなでようやくご主人様の捜索が再開した。
マヤは家の表札やマンションのポストなどを調べて回った。
一方ヒカルはというと、木の上のほうを覗き込んだり、ゴミ箱の中を探したりしている。
はじめはマヤも注意していたのだが、やがて時間の無駄だと理解したのか黙々と探している。
夜更けに女二人でうろうろとしていたら、下心丸出しで声をかけてくる男どももいたが、マヤの手によってひしゃげられた(何をひしゃげられたのかは彼らの尊厳に関わるのでここでは伏せておこう…)
そして、捜索開始から3時間以上がたったころ、ようやく一つのマンションへとたどり着いた。
ポストを見て見るとそこには「王星明」と二人が捜し求めたご主人様の名前が書かれていた。
ヒカル「ねぇねぇ、これってご主人様の名前だよね!」
マヤ「えぇ、そうね、ご主人様の名前は中国のほうでも珍しいはずだから…」
ヒカル「はやくいこうよ、ねぇ、はやく!」
ヒカルに急かされながらも、マヤ自身気持ちが昂って行くのを感じていた。
ピンポ〜ン
王と志摩がテレビを見ていたとき、玄関のチャイムが鳴った。
志摩「は〜い、あ、ご主人様、私が見てきます」
王「ああ、頼むよ、志摩」
そういってスリッパをパタパタいわしながら志摩は玄関に向かった。
志摩「はい、どちら様ですか?」
志摩が玄関の扉を開けると、そこには着物を着た女性とボーイッシュな格好をした少女が立っていた。
志摩(わぁ…綺麗な人…)
マヤ「(あら、ご主人様の妹かしら?)あの…王星明さまはいらっしゃいますか?」
志摩「ごしゅ…王さんになんのご用ですか?」
マヤ「(苗字で呼んでいるということは家族の方ではないのでしょうか?ということはあまり守護天使のことは出さないほうがいいですね)あの、昔お世話になっていたことがありまして、今日はそのお礼に伺ったのですが。」
などというやり取りをしていると奥から王が出てきた
王「志摩、誰が来たんだい?」
マヤ「あ、あぁ…」
ヒカル「ご主人さ…ぐっ!」
大きな声を上げながらご主人様に跳びつこうとしたヒカルだったが、マヤのアイアンクローにより阻止される。
王「…ご主人?」
マヤ「あらあら、この子ったら何を口走ってるんでしょうか?ホホホ…」
ヒカル「いだだだだだだ」
マヤはにこやかに笑っているが指先には結構な力が加えられているようである…
王「もしかして君たちは守護天使なのかい?」
マヤ「!?ど、どうして守護天使のことをご存知なのですか!?」
王「ああ、気づかなかったかい?この志摩も守護天使なんだ、それに私の星占いでもほかの守護天使がいることが出ていたからね」
マヤ「この子も守護天使なんですか?」
志摩「あ、はじめまして…虎の守護天使の志摩といいます」
そういって志摩はぺこりと頭を下げる
マヤ「私はミヤマクワガタの守護天使、マヤと申します、そしてこの子はゲンジボタルの守護天使のヒカルです。」
そう言いながらマヤはヒカルを掴んでいた手を離した
ヒカル「いたたた…うう、ひどいよマヤ姉ぇ」
マヤ「ほら、ちゃんと自己紹介しなさい」
ヒカル「あ、うん、ボクはヒカルだよ、よろしくね!」
こめかみをさすりながらマヤにジト目を送っていたヒカルだったが、すぐに笑顔になると明るく自己紹介をした
王「そうか、君たちはあの時の…ヒカルは逃がしてしまってすまなかった。」
ヒカル「ちがうよ、あれは僕が勝手に逃げ出しちゃったんだよ!…だから」
王「いや、私の管理が悪かったから…そうだ、マヤは、森に還した後ちゃんと自然に戻れたのかい?」
マヤ「あ、ええ…はい…」
王「そうか、よかった…それが心配だったんだ」
マヤ(ご主人様、私たちのこと20年近くたってもちゃんと覚えていてくださったんですね…)
ヒカル(やっぱり、おっきくなってもご主人様は優しいままだ)
ヒカル「ねぇ、マヤ姉ぇ…もう、いいよね…」
マヤ「そうね、ご主人様が守護天使のことをご存知ならば我慢することもありませんね」
それを聞いたとたんヒカルは王に飛びついた
ヒカル「ご主人様〜〜〜〜〜〜!!」
王「うわ!っと」
胸に飛び込んできたヒカルの頭を撫でながら王は優しげな表情を浮かべた
王「おかえり、ヒカル」
そしてその王に寄り添い、涙を浮かべているマヤ
王「おかえり、マヤ」
後ろでは自分の存在を示すように控えめに王の服のすそをつまんでいる志摩がいた
王「これからもよろしく、志摩」
マヤとヒカルは王の優しさに触れ、再会の喜びに涙が次から次に溢れてくるのであった
マヤ「ご主人様、これからは私たちも誠心誠意お仕えさせていただきます」
王「ああ、これからは四人で一緒に…」