あたしは苦痛に呻いていた。
息が苦しい。胸が熱い。体のあちこちが脱力し、いくら力を入れようとしても、億劫な今の姿勢を変える事すらできない。
その上、あたしは今自分が置かれているあらゆる状況に混乱していた。
――ここは何処?
普通の場所でない事は分かる。見渡す限り全ての空間が真っ白で、視界を塞ぐ遮蔽物さえ無い、全くの無機質な世界にあたしは居た。所々、背景よりも白く輝く光の玉のような物がふわふわ浮いているが、危害を加えてきそうな様子はないので、とりあえず気が付かないふりをしようとした。
――私は誰?
頭もぼうっとしていて、こんな訳の分からない所にいる。だから馬鹿らしいかもしれないけど、それをいちいち確認したくなるほど、あたしは動揺していた。
『……あたしの名前は藤原真純』
聞き慣れた自分の名前が口に出た事に、本当に胸を撫で下ろす。
――何故、こんなところにあたしは居るんだろう。
それが一番分からなかった。夢であって欲しいと思う。こうして今を思案する間も苦しみは続いているというのに、何時までも変化する事の無さそうなこの無機空間にずっと幽閉されると思うと、頭がおかしくなる。
だが、そんな無変化への心配も杞憂に終わろうとしていた。
『おとうさん……』
やけに弱々しい声が頭に響いてくる。なんだろう……。
妙に誰かに似ている声色だと思ったら、それはあたしの声だった。
『くるしいよぉ……おとうさん……』
それにしても、この父親の呼び方はなんだ。いつもあいつの事を「親父」と呼んでいるあたしとは、やはり別の声なのかもしれない。
その声は、今のあたしよりもずいぶんと苦しそうだった。
『うぅ……うぅぅ……』
可哀想に……うなされてる。それでも半分夢心地でぼんやりとその声を聞いていたら、何処か懐かしいもう一つの声が、その子の近くにやってきた。
『大丈夫か……真純……』
ああ……。
親父が来たんだ。
優しい声……。懐かしい匂い……。暖かい言葉に安心して、苦しげな呻きから静かな寝息へと変わるその声は、やはり紛れもない、あたしのものだ。
でも、またあたしの中に疑問が……。
これは、何時の話?
あり得ない。理解できない。少なくとも、こんなの……今の現実じゃない。
今のあたしは……今の親父は……。