昔むかし……。
私はちいさな女の子でした。
お父さんとお母さんと一緒に、まだ自然がたくさん残っている町に暮らしていました。
ある日、私はふたりのお兄ちゃんに出会いました。
一人目のお兄ちゃんは、いつも元気に笑っています。
道路の向こうから走ってきて、ほんのちょっとの時間、私と遊んでくれます。
走るのがとっても速いです。いつも連れてるわんちゃんも速いです。
でもこの前競争したら、お兄ちゃん負けちゃいました。
ちょっと悔しそうにしてたけど、とっても気持ちよさそうな顔をしていました。
私はこのお兄ちゃんが大好きです。
もう一人のお兄ちゃんは、めったに笑いません。
いつもつまらなそうにしています。まるでこの世界のすべてが、退屈だって言っているみたい。
そしてなにか大切な物をなくしてしまった時のような目を、時々します。
私はお兄ちゃんと遊べません、ただ一緒にいるだけです。
でも、ときどき笑ってくれます。
私は、もっとお兄ちゃんの笑顔がみたいです。
……
道が開けてきた。
やっぱり、それは白く輝く道だったけど。
普通の夢を見ることは、もうかなわないらしい。
道は私の足下から遙か彼方まで続いていた。
他にどうすることも出来ず、私はその道を歩き出した。
あたりはすべて暗闇に包まれている。
白く輝く道とそれを取り巻く暗黒というモノトーンの世界の中で、私は色盲になりそうだ。
さっきから続く思考の混乱も止まりそうにない。
幼少の記憶、意識、そんなものが濁流のごとく頭の中に流れ込んでくる。
もうろうとする意識の中で、それでも私は目の前に続く道をただひたすら歩いていた。
果てまでゆけば、救われる気がした。
歩きながら辺りを見回しても、光景は全く変わらない。
見渡す限りの、闇。
それまで私の周りにいた光達も、今ではその痕跡を失っている。
変わらず頭を支配している記憶の流れの中で、私はひとつの光景を拾いあげた。
あの時、私の前に姿を現した天使。
彼女の、優しく、そして……。
誰かを憂うような笑みを。