The freezing fragment

第1話「光のハンタイ

点灯スル

山、深き森で覆われた漆黒と四季折々の色彩が混在する世界、かつて俺はそこで迷った事がある。

翳っていく月、天が与えていく闇。俺はその中で1匹、その存在が判るモノを感じる。『動き、気配、怖い、不気味』そんな言葉が、幼かった俺の頭を過ぎる。

更に俺の状況は悪かった、俺の側には親戚の女の子。その子の、ガタガタと震える指と唇とが、俺を後悔の深い沼に落としていく。

「誰だ、出て来い」勇気を絞っていった言葉が、掻き消されていこうとする瞬間・・・遠くで啼き声がする、甲高い獣の声。それが俺とコイツの出会い。

「ごしゅじんさま?」不思議そうに見つめながら、俺の傍でそう言う少女、齢にして7つ。

俺も驚いた、まさかあの時の狼が、俺の元へと帰ってくるなんて。

俺とコイツが再会したのは、去年の夏。

忘れもしない、海の家のバイトから帰ってくる時だ。誰も居ねぇ田舎道を、俺が歩きながら、日が暮れてきた空を見上げた時、誰かに袖を引っ張られた。ぶっちゃけウザかった、「誰だ!

そして見る。何も居ない、そこで今までの経験上から、目線を下げてみる、と、「藤田 大地さん、ですよね?」俺の名前を呼ぶ少女、何なんだ、コイツは。

「んあ?俺がどーかしたか、ガキ」「・・・えーと、ただいまデス。」・・・耳を疑う俺、思わず「はぁっ!?俺が、西暦何年何月何日何時何分何秒、地球がどの方向に何回自転する前に、御前みたいなガキに会った?」

「あのー・・・、えーと・・・」流石に困るだろう、ハッハッハッ、とは言っても俺は俺でアレか。・・・ゲ!俯いてやがる!仕方無い、質問を変えてやるか。

「御前にとって俺は何だ?」簡単な問いに、ガキはこう答えた。

「はじめてあった、だぁーいすきなひと♪♪」ご機嫌そうなガキを横に、その瞬間、どっかから強烈なフラッシュバックが俺を襲った。

山、夜、俺・・・親戚のアイツ、・・・アイツ!?コイツ、よく見てみると似てる、つーか同一人物級だぞ、オイ。

しかも、あの時と同じ格好・・・、待てよ、アイツって12歳だよな、今。6年前に起こったんだから。

待てよ、確かアイツって、身長147cmとか電話で言ってなかったか?どう多めに見ても、25cmはたんねぇぞ!?

「ますます、訳が判んねぇ。おい、ガキ!てめぇ、何者だ?」「ミカドです」「ハ???」「ミ・カ・ド・で・すっ!6歳・ですっ!」まるで幼稚園児の様な返事。それはそうと、『ミカド』だと?これじゃあ、あの時の狼じゃねぇか。

「あぁ!?答えになってねぇーっ」俺、さっきから怒鳴りっぱなし。「・・・あの・・その・・・えーっと・・・ひっく、ひっく、うっ、うっ、えーん!!!」道端で泣かせてしまった、俺に罪悪感が満ちてくる。

「・・・悪ぃ、この通りだ」そう言って、頭を撫でてやる。すると、段々落ち着いてくる。「ひっく、あ、あの・・・これ・・・ひっく・・・」暫くして、出されたのは一枚の封筒。

「開けていいのか?これ。」泣きじゃくった顔でコクリと頷く。ビリリ・・・と開けると丁寧な字で書かれた文章が。

「前略 突然のご無礼申し訳御座いません。私はこの子の教育係をしていた者です。

この子の名は『ミカド』、そう、貴方が6年前助けた子供のニホンオオカミです。あなたをお守りしに彼女は現世に戻ってきました。

生まれ変わる為に、彼女の容姿は、思い出の中の女の子にそっくりなのです・・・。

その子は、少々『血』に対して特殊な反応をしますので、お気をつけて。

追伸 呪詛悪魔、と呼ばれる輩が近辺に出没しています。ミカドに絡んでくる輩にもお気をつけて。」

判らねぇ、ただ、コイツがあのミカド?在り得ねぇ、在っちゃいけねぇ。それに、コイツがあのミカドなら覚えてるはずだ、・・・そうだ、それで調べるか。

「この傷が判るか?」バッ、と見せた痕。脇腹を切られた様な、深い傷痕。まるで、そう、血が血漿で無理に止められた様な。赤、紅、緋。

ガタガタガタガタガタ・・・・と音がした。何事か、と思って下に目線を降ろす。少女が起こす、震え、震え、震え・・・・。

「・・・よーし、分かった。・・・勝負しようぜ?」「え?」キョトン、とした眼差し。「だから、勝負。タイマン」

「え?え?・・・えーっ!?」混乱する相手を尻目に、俺は鎌を取り出し構える。「さ、構えろ。俺は俺以外を信じねぇ」「ごしゅじんさま、どうして・・・?」止めろ、そんな眼で俺を見るな。

「どうして?・・ってか?・・・・いいだろう、教えてやる。俺は自分以外を信じねぇ。そして、御前の言ってる事もよく判んねぇ、・・・馬鹿だからな。ついでに、御前の教育係もな。だから、御前を消す」

「ミカドは・・・嫌です、戦い。」

「あ、そ。じゃ、消えるがいいさ。」体勢を低くし、一気に突っ込む。「うおぉりゃっ!」首筋へと刃を差し向け、斬る、切る、kill。

シュン、っと空を凪ぐ音がした。外れたな、これでは。「ふん、見かけに由らず、「・・・あ?何かあんのか、掠り傷の血が。」

・・・途端、俺は悟った。(ヤバい)

身震いが止まらない、動けん。風が止み、静寂は俺を焦らせる。オイオイ、ガキの空気、まるで別だろ!

よーく見てみる、するとある事に気付いた。『眼が紅い』、血を見る前の眼とは違う。そう言えば黒髪から銀髪になってるし・・・、有り得ねぇ。

「アリかよ、てめぇ、人間じゃねぇ」

おどけながら話すと、ヒュゥッ、と風を切り俺に向かう・・・針の様な刃、ナイフ。

俺はそれに対し、横に体を反らせながら跳ぶ、威嚇の為、縦回転で廻し蹴りを放つ。「・・・血、血血血血血血血血血血血血!!!!」なんか、違う。つーか、精神的に大丈夫か?このガキ。

マジに殺気を感じる、そろそろだな。俺は集中し狙いを定める。ガキも短期決戦へと、動きを止め気を集中する。



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